第21話 3日目の放課後、屋上での決闘3
元の姿に戻っている辺見くんを見ていたら、もう1つ疑問が生まれた。
「首筋の、持って生まれた傷跡も消えたの?」
と、私、聞いてみる。黒いマフラー、相変わらず首に巻いていたからね。
「消えるわけがない。生まれついたものだから、それが常態ということになる。例えば美容整形でこの傷跡を消したとしても、治癒魔法で再び現れてしまう。
そういうもの、なのだ」
「……あ、そう」
私はそう呟くしかない。私、魔法のことは思い出せてはいないからだ。
これはいつもの元魔王の辺見くんだ。言っていることはなんかマジっぽいけど、雰囲気自体は頼りないふわふわしたものが混じっているので、妄想を語っているようにしか聞こえない。
それら比べると、なんなんだろ、さっきの強者感は?
あんなのが辺見くんの中の人だっただなんて、もうこれからどうしていいかわからない。いきなり敬語でなんか話せないし、そもそも勇者が魔王に対して敬語はないよね。
あるとしたら、最初っから嫌なヤツ全開で慇懃無礼な態度で通している場合だ。でも、私、そういうタイプじゃない。
私がそんなことを考えて固まっていたら、賢者が元魔王に話しかけた。ちなみに、賢者は保健室の先生なのに、武闘家は屋上のフェンスに逆さに貼り付いたままでそのまま放って置いている。「死んでいないからいいや」って、そういう判断なんだろうなぁ。
「元魔王。あなた、さっき、『10秒しかないから、高速圧縮詠唱でも2つしか魔法が使えなかった』って言ったの、嘘でしょう?」
「……」
すばりと聞くねぇ。
返事がない。
都合の悪いことには答えないつもりだな?
つまり、賢者の言っていることは正しいってことだ。
「いくらあなたが魔王でも、この星の薄い魔素の環境下ではそうは魔法が使えない。実はもう、魔素切れで3つ目の魔法は使えないんでしょう?」
えっ、2つしか使えなかったのは、時間のせいじゃないってこと?
で、それを隠そうとしているってこと?
元魔王、ずるいじゃん。
姑息じゃんっ。
アンタと私の仲だっていうのに、ずいぶんと他人行儀じゃん。
「聖剣タップファーカイトは、魔素とは違う術式で使える。そして、その制御に魔素は大して使わない。
つまりね、魔王、勇者がいる限り、アンタのほうが不利なの。
この魔素不足の中で強大な魔法で星を降らせたりしたら、空振りに終わるか、いくつか星を降らせただけで寝込むような副作用が来るか、だよ。
だから、同じ目的で戦うのなら、私たちの指揮下に入りなさい。私たちがあなたの指揮下に入ることは絶対にないのだから」
うわ、賢者、あれを見た上で、いや、見たからこそかもしれないけど、この提案なんだ……。
「調子に乗るな。
たしかに聖剣タップファーカイトはある。だが、それ以外の勇者の装備はどうなのだ?
戦士の武器、防具はない。賢者も魔法から身を守る服や魔法効果を増幅する装備を持っていない。実質、お前たちも無力ではないか?
余の世界とこの世界が崩壊の危機にある今、お前たちのほうが無力感に歯噛みすることとなろう」
うーん、そのとおりかもしれないけど、そんな言い方しなくてもいいじゃん、辺見くんってば。
ほら、もっと仲良くして、和気あいあいと……。
「私たちを舐めないことね」
あ、賢者、言い放ったわね。なんか手があるっていうの?
それとアンタ、魔王が怖くないの?
あとがき
賢者は、装備のあてがあるのだろうか……、ねぇ。
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