第20話 3日目の放課後、屋上での決闘2


 賢者の術式は一瞬でできた。

 魔素が少なくてあまり魔法は使えないらしいけど、聖剣タップファーカイトの制御だけだったらほとんど魔素は使わなくて済むそうだ。水流は激しくても蛇口を閉めるのは楽、そんなようなもんなんだろうね。


 私、保健室の先生の賢者が白衣の胸のポケットに挿していたボールペンを借りて、それを聖剣タップファーカイトの依代とした。

 そして、元魔王の辺見くんの髪型をモヒカンに仕上げてやった。聖剣タップファーカイトの使い方は1度目は失敗したけれど、なんかもう自由自在な気がしたんだよ。前世の記憶ってやつかもしれない。

 その瞬間から10秒しかないので、橙香が焦り気味に「始めっ!」と叫んだ。


 武闘家、元魔王の辺見くんがいきなりモヒカンになったので、相当に驚いたらしいけど、すぐに間を詰めて辺見くんに殴りかかった。むきむきの筋肉が躍動する。あー、この筋肉が武闘家の自己愛の証でなかったら、それなりにモテたんだろうねぇ。

 で、私が数えたのは4発までで、それはすべて元魔王の辺見くんのボディに吸い込まれるように決まっていた。


「なにやってんのよ、魔王のくせに」

 思わず、私の口からそう文句が漏れた。

「勇者、お前のせいなんだよ」

 地を這うような声が響く。


 不気味なことに、その声は元魔王の辺見くんの口から漏れたはずなのに、屋上の空間全体に響いた。

 私、前世で魔王に向き合ったときのことを思い出した。そうだ、こういう声が響いて、次には空から星が降ってきて、私たちは全滅したんだった。

 やっぱり、10秒といえども魔法を返すべきじゃなかった。私、とっさに聖剣タップファーカイトを構えたけど、その依代はボールペンに過ぎない。頼りないこと、夥しすぎる。


 空気が帯電し、髪が逆立つ。

 ぱりぱりと音を立て、あちこちに小さな稲光が光る。

 生臭いにおいが鼻を打った。オゾンの匂いなのか、魔王の体臭なのか、それはわからない。

 私、ボールペンの代わりになる棒状のものを探して、視線をせわしなく動かした。橙香と保健室の先生の賢者は膝をついてしまっていて、戦えるようには見えない。装備が1つもないんだもんね。ひたすらにやり過ごすという判断をするしかないんだろうな。


 そこへ、どっしゃんって音が響いた。

 屋上のフェンスに、武闘家が逆さに叩きつけられていた。武闘家、やっぱり口ほどにもない。元魔王にワンパンでK.O.されちゃうなんて。


 敵わないまでも、私には聖剣タップファーカイトがある。戦うしかないなら、見事戦ってみせよう。

 私がせっかくそう覚悟を決めたのに……。

「勇者。これでいいか?」

 そう声がする。

 この質問をしてきたのは、元魔王の辺見くんだ。その声は、辺見くんの口から出ている。どうやら10秒が過ぎて、人間の身体に戻ったらしい。


「……なぜ?」

 と、これは橙香のつぶやきだ。で、私もまったく同じことを思っている。

 元魔王の辺見くんは、せっかく似合っていたモヒカンから、前の髪型に戻っていた。


「10秒しかないから、高速圧縮詠唱でも2つしか魔法が使えなかった。

 まずは『身体復活』で前世の身体になった。こうなれば、武闘家にいくら打たれようとも問題ない。次に武闘家を吹っ飛ばし、最後に『変化』を掛けてこの身体に戻った。勇者の強いた髪型は好かぬので、併せて元通りにした」

 ……なるほど。

 って、そーじゃないっ。


 なんでこんな化け物に、私たちは前世では勝てたんだろうか?

 コイツ、ヤバすぎるじゃん。

 あんまりいじめない方が良かったかな?

 って、いまさらビビってどうする、私?



 あとがき

無邪気にいじめていたら、トカゲじゃなくて竜だった、みたいな?

自業自得じゃww

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