第19話 3日目の放課後、屋上での決闘1
どーも、武闘家はやる気まんまんらしい。なんだかんだ言って、自信はあるのだろうな。
それに対して、元魔王の辺見くんは、露骨に怯えている気がする。背は高いけど、戦うとかあまりイメージできないもんね。
「じゃ、始めよ。だけど、ルールだけは決めましょ。殺し合いしたいわけじゃないし、辺見くんに手加減してもらうためにも君が身につけているものはなにかを言って。
空手?
柔道とかレスリングとか?」
と、これは橙香。戦士だけあって、戦うことについてはプロっぽい言い方だよね。
「俺は、生まれたときから強かった。
なにも習ってはないが、どのような相手と戦っても負けたことはない。あちこちの道場やジムからスカウトはされているが、飯の種にするのも違うと思っている」
あ、前世の記憶、そこは残っているんだなぁ。
「じゃあ、どれほど酷くても、後遺症は残さないようにして。で、保健室の先生が見ているという範囲でお願いするわ」
「あ、あの……」
橙香が話を進めているのに、元魔王の辺見くんが小声で口を挟んだ。
「僕、そんな肉弾戦は……」
……なによ、情けない。
負けるとわかっていても、突撃しなさいよ。
私がちろんと視線を向けると、元魔王は不意に真面目な顔になった。
「30秒だけでいい。魔法を戻してくれ。そうでないと、余は瞬殺される。
その場合、勇者、お前は余が好きだということになるが、それでもいいのか?」
えっ、どういうこと?
あ、さっきの話の『反動形成』ってヤツを私が自分で証明しちゃうってこと?
好きだからこそ、自分が影響されるのを恐れて消滅を願うってことだよね?
それは嫌だわっ!
断固拒否するっ!
冗談じゃないっ!
それなら武闘家じゃなくて、私が殺すわっ!
って、これも『反動形成』?
しょーがないわねっ。
「じゃあ、どうすればいいか教えなさいよ」
「賢者に聞け」
元魔王にそう言われて振り返ると、保健室の先生の賢者はため息をつきながら私の顔を見た。
「聖剣タップファーカイトで封じられたものは、聖剣タップファーカイトでなければ解放されない。前に魔王を斬ったとき、その斬り口から封印の術式を流し込んだ。だから今度は逆。私が解放の術式を作るから、それを聖剣タップファーカイトで辺見くんに流し込みなさい」
「それって、斬るってことだよね?
辺見くん、それで死んじゃわない?」
私、人殺しはしたくないぞ。それに辺見くんが死んで、そこから魔法を取り戻した魔王が現れたら最悪じゃんか。
「元魔王の爪でも斬りなさいよ」
こともなげに賢者が言うのを聞いて、私は「なるほどーっ」って感心した。
……それってつまり、髪でもいいってことだよね?
辺見くん、モヒカンとか似合うかな?
それとも、ザビエルのトンスラとかにしてみようか?
それともそれとも、もっと面白いのあるかな?
「おい勇者、お前、いつにも増して悪い目つきしているな」
元魔王が、私の方を疑い深げな目つきで見てくる。私、軽く軽く返してあげる。
「いや、気にしない気にしない。
10秒だけ魔法を戻してあげるから。
そのかわり、髪型がサザ工さんになるのはご愛嬌ってことで……」
「ふざけんなっ!」
「私、真面目だよっ!
真面目に髪型考えてあげたんだよっ!」
「うるせぇっ!
さっさと始めようぜっ!」
私と元魔王の会話に、武闘家が強引に割り込んできた。
うっさいのはそっちよっ!
でもって、なんで脱いでいるのよっ?
元魔王、ヤッチマイナー!
あとがき
「ヤッチマイナー!」は、本来負けフラグなんですけどねwww
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