第17話 3日目の放課後、屋上3


「そんなさ、生まれ変わる前の心臓を3つと脳を9つ持っているとかの昔の身体を自慢するなんて、昔の別れた彼女を自慢するようなもんでしょ?」

 続いての燈香のセリフは手厳しい。


「そっちが最初に、血の色うんぬんで余を下等動物などと言い出したからではないかっ!」

 元魔王、血相が変わったな。マジで怒っているし、その言うことは筋が通っている。……うん、筋は通っているんだけどねぇ。


「まぁ、辺見くんの身体に、魔法無しで転生してしまった自分を恨むのね」

「そうして閉じこもっていたいのは山々なのだが、そうもいかぬのだ。余は世界が滅びに面しているからこそ……」

「まぁ、そこは協力するのもやぶさかではなくて……」

 そこはね、まぁ、仕方ないよ。私だって、死にたくないもん。それに、勇者だったときの記憶もまだ戻っていないし、そうなると今の家族だってとても大切だ。


「そうだ。お前たちだって、今生きているこの世界がなくなることを望みはすまい?」

「もちろんよ。だから、アンタの言うことも無視していないし、こうやって協力するために武闘家を探しているんじゃない」

「……勇者の言うことだけ聞いていると、余が酷い目に合わされているとはとても思えんな」

 ふーん、そういう皮肉を言うんだ。それはそれ、これはこれじゃん。まだ懲りていないなら、後悔させてやる。


「そういうご託はいいから。

 それより、ほら、ポーズが疎かになってる。次はアドミナブル・アンド・サイ!」

「もう、勘弁してください……」

 ふっふっふ、私に逆らおうなんてしたら、泣いたり笑ったりできなくしてやるからな!


 と、私が決心を固めたところで……。

 屋上出入口のドアが音を立てて開いた。鉄製の重いドアなのに、ばんって一気に開くのは勢い良すぎだ。誰かが近くにいてそのドアに当たったら、走っている車にはねられるくらいの衝撃で大怪我するだろう。


 つかつかと元魔王に近づいてくる、1人の男子。私たち女子の綺麗どころが3人もいるのに、まったく目もくれない。

 絶対どうかしているぞ、コイツ。


 その男子は、ちろんと元魔王に視線を走らせた。そして、「ふん」と鼻を鳴らすと、回れ右してそのまま屋上出入口のドアに向かう。さすがに私、その男子を呼び止めた。

「ちょっと、待ちなさいよ。

 アンタ、この男子の筋肉と張り合うために来たんでしょ?」

「そうは言うが、偽物じゃないか。

 こんなの詐欺だ。わざわざ屋上まで来てやったのに」

 おお、これは有望だ。武闘家に間違いない。


「アンタ、バカ?

 この辺見くんがどういう力を持っているかもわからないの?

 戦ったら、アンタなんかこてんぱんなんだから」

 私の言葉に、その男子は視線をちらりと元魔王に走らせた。


「わからないな。

 筋肉量がないのはまだいいが、身体の軸がぶれている。だから、ポーズも取ってつけたようだし、まぁ、戦っても貧弱だろう。お話にならない」

 またもや出た「貧弱」に元魔王が傷ついているのを、私は横目で見ながら言葉を続けた。


「それでもさ、この男子を見ていると、嫌な気持ちが芽生えてきたりしない?」

「嫌な気持ちとは?」

「この男子に負けた記憶が蘇らない?」

「そんなもの、あるはずがない」

 そう言い放ちながらも、その語尾があやふやになるのを私は聞き逃さなかった。


「ほーら、不安になってきた」

 私がそう煽ると、その男子の顔は仮面を被ったように表情を消した。

「保健室の先生まで来て、こんなところでなにをしているんですか?」

 あ、正論で対抗する気だな?

 でも、ヤバくない?

 答えようがない質問じゃん。

 大丈夫、賢者?



あとがき

今回も、みんな、発言が厳しいw

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