第16話 3日目の放課後、屋上2
「まぁ、ちょっと待ちなさいよ、戦士。ここに大穴の開いたカーテンがあるから、これを裂いて元魔王の貧弱な身体のあちこち巻き付けましょう。実際、この貧弱な体格で脱いでポーズを取られても、武闘家が対抗心を燃やすとは思えないのよねぇ」
賢者の言葉はまぁ、冷静に考えればそのとおりなんだけど、元魔王を晒し上げる方が楽しいといえば楽しい気もする。
「目的を忘れちゃダメよ、勇者、戦士。実際、この元魔王は貧弱なんだから」
賢者の言葉は、橙香と私を窘めるものになった。そうこられると、私も弱い。賢者、先生みたいな態度と圧で話してくるんだもん。まぁ、実際、先生なんだけど。
で、「貧弱」をしつこく繰り返された元魔王は、再びひどく傷ついた顔になっていた。
「わかったわよ。仕方ない。でも早く支度してよ」
橙香が折れた。
うーん、屋上で脱がせるという企画はダメだったか。しっかし元魔王、脱がなくていいって結論に、いきなり露骨に嬉しそうな顔になったな。
橙香と私が力ずくでカーテンを裂き、制服を脱いだ元魔王の体に巻き付ける。で、再び制服を着せると、うーん、某柄杓星拳法の偽兄みたいな感じになった。異様なまでのもりもりマッチョだ。
私もたまには古いマンガを読むんだよ。
「さあ、フロントダブルバイセップスからサイドチェストにいってみよー」
橙香の掛け声に、半ば涙目になりながら元魔王はフェンスに近いところでポーズを決める。さっきまで嬉しそうな顔していたくせに、実際に行動となったら、なんだその態度。ちょっとムカつくぞ。
「これから、武闘家が現れるまで毎日繰り返すからね」
私の声に元魔王、カーテンでぱんぱんに張った肩を落とす。
「ほら、下を向かない。きちんとポーズを決める」
橙香も容赦ない。
「ああ、死にたい……」
「問題ない。
いろいろ片付いたら、すぐに退治してあげるから」
私の言葉に元魔王、今度は怒り顔になった。
うん、見てくれ良いままに、表情がくるくる変わるなぁ。
「なに、怒ってんのよっ!?
アンタが死にたいって言うから、協力してあげようって言ってんのよ」
「勇者、お、お前の血は、何色だ!?」
「赤よ、赤。
アンタこそ青いんじゃない?
イカと一緒で。魔王ってのは……」
「余はイカではないぞっ!」
「でも、触手はあったよね?」
私と元魔王の会話に、賢者が割り込んだ。
「触手ってことは、卵から生まれる無脊椎動物ってこと?
ずいぶんと下等生物じゃん」
そこへさらに戦士の橙香が口を挟む。
「貴様ら……。覚えておれよ。
あのな、魔法を前提とすると、進化の過程だって変わるのだぞっ!」
「またまたまたまたまた、そんなこと」
橙香がそう元魔王を笑う。
「お前らこそ、首を落とされたら確実に死ぬではないか。
余は、首を落とされたこと自体が死の理由にはならぬ」
「えっ、まぁ、たしかに言われてみれば、首を斬ってからも結構手間取ったかも……」
おい、賢者、それどーいうことよ?
「余の身体は、心臓を3つと脳を9つ持っているのだ。だから、首を落とされたとて、それは死ではない」
そう元魔王の辺見くんは言い放った。
マジか。なんて、おぞましい。
「でも、目鼻口耳は頭にあるんだよね。だから、それからは単に蠢いているだけで、とどめを刺すのは大変だったけど戦闘に苦労はなかったような気が……。
うーんと、魔法も来なかったような……」
え、賢者、そうだったの?
「前世なんかどーでもいい。今は辺見くんの身体だから、首を落としたら確実に退治できるわ」
あ、またまた橙香が容赦なくて、身も蓋もないや。
あとがき
屋上でぬか喜びする魔王のイメージアートを頂きました。
花月夜れん@kagetuya_ren さまからです。
感謝なのです。
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