第15話 3日目の放課後、屋上1
なんかもう、うわ言みたいに「なんで? どうして? なんでこうなった? どうしてこうなった?」と呟く元魔王の辺見くんを引っ立てて、私たちは屋上に向かった。保健室の先生の賢者は、大穴の開いたカーテンを回収してあとから付いて来る。
もう放課後だし、急がないとみんな、というか、みんなの中の武闘家が帰っちゃう。
「アンタね、さっき、私たちを3回も殺したって言ったでしょ。私たちはまだ1回しかアンタを殺していないんだから、もっと申し訳なさそうに腰を低くするべきなのよっ!
いい?
わかった?
もう、『この世も我が魔界も滅びてしまえばいいんだ……』なんて言うんじゃないわよっ」
橙香の容赦ないお説教が繰り出されているけど、うんうん、そのとーりだ。
少なくとも私たちは、2回は元魔王を殺す権利があるはずだなんだかんね。
「そもそも、そっちがこっちを3回も殺しに来たんじゃないか。それに対する反撃の結果を、恩着せがましく言われる筋合いはないぞ」
「それを言ったら、こっちを征服しようとして攻め込んできたのはそっちでしょ。殺されるようなことをしていたじゃんっ」
橙香と元魔王の言い争いは続いている。
「我が良き良き治世で、数が増えすぎたのだ。民を飢えさせないのは王者の務めである」
「2等スライムは、魔王のこと忘れていたよ」
私のツッコミに、元魔王はしゃがみこんだ。あ、予想外に効果あったのか、この一言。
「寝食を忘れてみなのために働き、なのにそのために殺され、挙げ句存在すら忘れられるだなんて。
……なんか、どんどん生きる気力がなくなっていく」
「ほら、泣かない。大丈夫よ。聖剣タップファーカイトで魔力が戻れば、元の魔王に戻れるわよ」
「勇者、阿梨。余の魔力を戻してくれると言うのか?」
「うん。そのうちにね。そのうち気が向いたらね。戻してあげてもいいかなーって、そういう気になったらね。0.9くらい……」
元魔王ったら、私が魔力を返してあげるって言っているのに、絶望的な表情になった。
だけど、橙香は容赦しなかった。
「さ、屋上よ。さぁ、脱いでポーズを取るの。
まずは、フロントダブルバイセップスから行ってみよー!」
「な、なんだ、そのフロントなんとか切腹っていうのは?」
「不死身の元魔王のハラキリショーも悪くないけど、とりあえず、こういうポーズを取るの」
そう言って、橙香がスマホを元魔王の辺見くんに突きつける。
橙香、アンタさぁ、それ、今調べたでしょ?
こんな泥縄なやり方で追い詰められていく元魔王、なんか不憫になってきたわ。
「とりあえず、服は脱がなくてもいいよな?」
「服を脱がなきゃ、筋肉自慢に見えないでしょ」
橙香のつれない返事に、さらに元魔王は食い下がる。
「保健室の先生がついていながら、屋上で不審な行動を取っていたら、それはそれでまずいんじゃないかな?
だから、脱がない方がいいと思うんだが」
「それはそうねぇ……」
あ、賢者、元魔王に日和るのか?
「それに僕、脱いでも貧弱だから、武闘家は対決には来ないと思うんだ。だけど、制服の下にタオルとか入れたらもりもりに見えるから、その方が……」
ああ、「余」が「僕」になっている。追い詰められて、元魔王成分より辺見くんの地が多く出ているらしい。
「タオルなんかないでしょ。諦めて、さっさと脱ぐ!」
と、それでも橙香は容赦がなかった。
あとがき
武闘家は見つかるのでしょうか……
これで徒労に終わったら、辺見くんの立場は……w
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