第14話 3日目の放課後8
元魔王は語る。
「……武闘家。
ヤツはな、己の筋肉しか愛していなかったし、見えてもいなかったのだ。武闘家として戦うのも、己の筋肉を誇示するためだった。
お前たちは、余を最初の一度では倒せなかった。全滅すること3回、そのたびに復活して余に挑んできたのだが、まずは毎回、必ず脱いでポーズをとったのが武闘家なのだ。
ああ、思い出したくもない」
「……それは、私たちも思い出したくはない風景だわね。なんでそこだけ覚えていないのかわかったわ」
賢者がそう言って、長々とため息をつく。
「だから、そのたびに余は真っ先に武闘家を怒りを込めて踏み潰したのだ。そもそも、『キレてるよっ』とか『ナイスバルクっ』などと余が言うわけがなかろうが。
だが、そのたびに賢者が復活させて生き返らせ、武闘家はあらためてポーズを取り始め、余は再びそれを踏み潰し、その行動がパターン化したがゆえの隙で勇者と戦士に首を斬られたのだ」
あ、それはあまりにご愁傷さまだわ。ナルちゃんはウザイを通り越して怖いもの。
でもって、元魔王が、なにかと嫌そうな顔をするようになっちまった理由もわかる気がするわー。こういうのって、みんな理由があるんだね。納得できたからそれでいいって話にはならないけれど。
「ならばさ……、いい手を思いついたんだけど」
私がそう言い出すと、まだ具体的にはなにも言っていないのに、元魔王の辺見くんってばすごく嫌そうな顔をした。おいおい、いつもそんな顔していると、素の顔がそんなふうになっちゃうぞ。
「どんな手よ?」
うんうん、やっぱりこういうときに律儀に聞いてくれるのは橙香だけだよ、うん。
「この元魔王をさ、屋上で裸にひん剝いて晒そう。そうしたら、対抗意識に燃えた武闘家が筋肉を見せびらかしに来る」
「その手があったか!」
橙香がぽんと手を叩いた。
ふと見ると、元魔王の辺見くん、そろりそろりと後じさりしていた。うん、逃げ出す気だな。だけど、無理だと思うよ。そのさらに後ろでは、保健室の先生の賢者が両手の指をわきわきさせながら、すごく嬉しそうに待ち受けているからね。
だっ、と走り出した元魔王の目前で、教室の引き違い戸がばんって大きな音を立てて閉まった。
そして、その前に腕組みをした賢者が仁王立ちで立ち塞がる。こういうとき、肩に掛けた白衣がなんか迫力だよね。
私と橙香も、その場で動けなくなった元魔王を囲んだ。
私が画鋲(もちろん、聖剣タップファーカイトだ)を掲げると、元魔王の辺見くん、ついに両手を床についてしまった。そして、床にぽつぽつと水滴が。
あ、泣かしちゃったか。
その涙は、元魔王のものなのか、辺見くんのものなのか……。
ま、どっちでもいいや。
「ちょっとは考えなさいよ。私たちは女なんだから、屋上で裸になんかなれるわけないでしょ。かと言って、夏になってプール開きするまで待っていたら、2ヶ月か3ヶ月先になっちゃうし、魔界への口は日に日に大きくなっているんだって言ったのはアンタでしょ。
私たち、元魔王のアンタのいいようにしてあげているのに、なんでそんな反応なのよ?
喜んで、笑って、感謝して、お礼を言いなさいよっ!」
私がそう言い放ったら、元魔王、なんか完全にぽろぽろ涙を溢しだした。
「もういい。もういい。
この世も我が魔界も、もう滅びてしまえばいいんだ……」
あ、そういうこと言うんだ。
こっちはこんなに協力してあげているのに。
あとがき
さすがに書いていて、元魔王が可哀想になってきました……w
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