第13話 3日目の放課後7


「さっき、武闘家は虹彩に黄金の夜明けと言ったよね。それって、虹彩の上半分の色が違うってこと?」

 橙香が元魔王に聞くけど、なんかさ、私を無視していない?

 私ってば、勇者なのよ。一番無視しちゃダメでしょーが。


「そうだ。そのとおりだ。

 前世では両目とも、虹彩の上半分の色が濃かった。だが、この世ではそこまでの色の差はないだろう。こうなると、下から照明で照らし上げでもしない限り見つからないだろうな。上から光がくる環境では、かえって自然に見えているだろう」

 元魔王は、そう語ってくれたけど、これがいちいち真実だっていうんだから、洒落にならないよね。でもって、左右の色違いという王道が1人もいないってのは、どういうことなんだ?


「で、武闘家ってのは、空手なん?

 柔道なん?

 それとも、カラリパヤット?

 それがわからないと、格闘技系部活といったって、ねぇ。空手の人は柔道の部活には行かないよ」

 私が聞くと、橙香だけが頷いた。そして、頷かなかった保健室の先生がぶつぶつ言うのが聞こえた。


「カラリパヤットってなによ?

 だいたい、武闘家だからって、部活でも格闘技やるとは限らないじゃん。美術部で、格闘技は校外活動かもしれないし」

 まぁ、それもそーだ。

 だけど、それだと武闘家探し出すの、お手上げじゃん。


「じゃあ、罠を仕掛けよう。なんか適当な事件を起こして、『お客様の中に武闘家はいらっしゃいませんか?』って放送すれば……」

「勇者、アンタ、バカでしょ?」

 あ、酷いな、橙香。


「もっと真面目にやりなさいよ。とはいえ、その技を使わないといけない状況を作るってこと自体だけは賛成だけどね。

 でも、これ、実際にはとても難しい。今のところ、私たちみんな女子のパーティーじゃん。武闘家も女子だとしたら、その技を見せてくれる機会なんかますますない。まさか、無差別に襲ってみるってわけにも行かないでしょ」

 ……橙香、前向きな提案と言っていいかわからないな、これ。


「いいや、武闘家は男だったぞ。

 それもタチが悪い……」

 元魔王の辺見くんが遠い目をして呟く。

 あら、なんかトラウマかな?

 でも、男子とわかっただけで、絞り込む人数的には半分以下にはなったね。


「お前ら、武闘家についてはなにも覚えていないのか?

 それとも、思い出したくないのか?」

「無意識で拒否しているってのはあるかもしれないけど、どんなんだったのよ?」

 あ、賢者、アンタ、いろいろ覚えているはずなのに、それは忘れているんだね。


「女ばかりのパーティーの中で、武闘家は男1人。

 なのに、色恋沙汰も起きず、パーティーが空中分解しないのはこのためかと余は何度も思ったぞ」

「いったい、その『このため』は、なんだって言うのよ?

 早く説明しないと、斬るよ」

 私がそう詰め寄ると、元魔王はまたまた心底嫌そうな顔をした。

 私もね、魔王に好かれたいとは思わないけど、そういう顔はやめて欲しいわー。傷つくじゃない。私がなにを言ったっていうのよ?


「相手に対して、『話さないと殺す』と詰め寄るのはどうかと思うぞ。勇者のくせに」

「一度や二度斬ったって死なないでしょ、アンタは。いいから話しなさい」

 私がそうさらに促すと、元魔王は嫌そうな顔を崩さずしぶしぶという感じで

話しだした。




あとがき

勇者無双(笑)

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