第12話 3日目の放課後6


 崩れ落ちた元魔王の辺見くん、ようやく起き上がると同時に私に文句を言ってきた。

「頼むから、真面目にやって欲しい」

 だってさ。

 けど……、元魔王からの懇願される言葉としちゃ、今ひとつ納得がいかないわね。


「真面目って……。

 人を堕落させるのがアンタの仕事とちゃんうんかい?」

 考えたことをストレートに口に出したら、またまた元魔王は嫌な顔をした。

 その嫌な顔ですらイケメン風なのが腹立たしいけど、私は正しいこと言っているよね?


「あのな、人の世と我が魔界が争っていたときは、人を堕落させる意味があった。

 だが、今は力を合わせ、戦わねばならぬ時ぞ。なんで、それがわからぬ?」

「だって、アンタ魔王でしょ!?

 信用したくないんだもん」

 あ。

 辺見くん、私の一言で頭の中で配線が切れちゃったみたい。

 頭をかきむしりながら、ヘッドバンキング始めちゃった。


 つくづく悲しいわね、魔法を奪われた魔王って。

 まるで鳥籠の中の鳥を撃つようだわ。

 で、こうやって躾けておけば、二度と私に逆らわなくなるんじゃないかな?

 それとも、恨んで復讐を考え出すかな?


 どっちにせよ、この世界が滅びるなんて話、どこまで真に受けて良いのかわからないし、とりあえず聖剣タップファーカイトが私の体内にあるのはわかったけど、だからって元魔王の話が全部真実だってのはまた話が違うよね?

 橙香は信じたみたいだけど、私は用心深いのよっ。

 ほらそこ、性格が悪いなんて言ったら、泣くからねっ。


「ちょっとさ、勇者。アンタが楽しいのはわかるけど、さすがに少し可哀想だわ」

「保健室の先生、魔王相手に随分とお優しい」

 ちょっと皮肉ったら、保健室の先生、私の顔をしげしげと見た。

 そして、なんか嫌々って感じで聞いてきた。

「……まさか、アンタ、私の名前覚えてないの?」

 えっ、そりゃそーなんですけど?


「だって、保健室なんて、まだ行ったことないし。

 入学式のあとに紹介されたけど、先生方が一列に並んでかたっぱから名前を言われたって、憶えられるわけないでしょーが」

「勇者、アンタさぁ、全角度満遍なく失礼ねっ。私の、現世の名も前世の名も憶えていないだなんて……」

「止めてくださいよ。先生のくせに大人げない」

 保健室の先生、私の一言で頭の中で配線が切れちゃったみたい。

 頭をかきむしりながら、膝を床についちゃった。

 そんなに悪いこと言ったかな、私?


「武闘家を探しましょう。

 武闘家がいないと、私たちだけでは勇者を抑えきれない。

 魔王、アンタ、武闘家がどこにいるか知らない?」

 保健室の先生、元魔王に聞く。

 なんか、ずいぶんと失礼なことを言われたような気もするけれど、私、聞こえなかった振りをした。

 さすがに話が進まないとは思ったんだよね。

 それに、問い自体は私にも興味があったからさ。


「校内にいることはわかっている。

 勇者が聖剣タップファーカイトを体内に持っているように、武闘家はこの世に産まれる際にその技は受け継いでいるはずだ。

 だから、格闘技をやってそうな人間はチェックしているのだが、未だに見つからない。まぁ、まだ3日目ではあるが……」

「ふーん。

 私の天敵らしいし、見つからない方が良いのかも……」

 ……なんでみんな、私の顔を見るのよ?

 橙香までが、そんな目で私を見るだなんて。

 私がなんかした?


「もういいわ。

 勇者は、ここぞというときに聖剣タップファーカイトを持って敵に突進するのが仕事だもんね。

 メガ◯テ要員だと思えば、腹も立たないわ」

 ちょ、先生、それはどういう意味よっ?



あとがき

勇者さぁ、アンタね、無双しているよ、悪い意味でね……w

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