第9話 3日目の放課後3


「やりやがった!! マジかよ」

 元魔王の辺見くんの悲鳴が耳に心地よい。

 でも、画鋲の先からはしっかり身を躱している元魔王なのだった。

 残念っ。


 だけど……。

 躱されたさきには窓。

 窓は開いていただけど、掛かっていたカーテンに、直径1mほどの大穴が空いていた。

「こ、殺す気かっ!?」

 あ、怒った?

 でも、びっくりしたのは私も同じだからっ。でも、どうしよう、このカーテン……。


「聖剣タップファーカイトって、マジなん?」

 橙香の下唇が震えている。

 よほどに驚いたんだろうけど、そんなにビビらなくてもいいじゃん。


 ここでいきなり橙香、辺見くんの胸ぐらを掴んだ。

「聖剣タップファーカイトがマジなら、じゃあ、この世界が危ないってのもマジじゃん!?

 そういうことなら、なんでもっと早く言わなかったのよっ?」

 あ、それはたしかにマズいな。私、そこまで考えてなかった。

 だけど、橙香に詰め寄られた元魔王の顔は、それこそ見ものだった。


「何度も言おうとしただろうっ!

 でっすソースを口に突っ込んでまで黙らせたのは誰だっ!」

「あ、それは橙香です」

 私、あくまで事実を言っただけだからね。それ以上でもそれ以下でもないからね。ましてや、責任逃れだなんてこと、まったく考えていないんだからね。だって、勇者だし。


「だってさ、そもそもアンタ、最初に阿梨を見たときに『前世からの因縁、今こそ見つけたり。我が魔力と眷属は失いしも、この身のみで十分。覚悟せよ!』とかなんとか言ってたじゃん。そんなこと言うから、こっちだって必要以上に警戒するんだよっ!」

「自分を殺した相手をいきなり目の前にして、冷静でいられるものか!」

「そんなんで冷静さを失うって、それは王の器なんでしょーかっ?

 さっさと魔王の座から降りなさいよっ!」

「ちょ、おま、『そんなん』って、こっちは殺されているんだぞっ!」

 おお、売り言葉に買い言葉だ。

 私の目の前で、急速にケンカの値段が高くなっていってる。


「貴様、もう許さん。星の雨を貴様の頭上に降らせてやるわっ!

 メテ……、あ……」

「……ふっ、魔法は使えないんだったよね。これでもくらえっ!」

 と椅子を振り上げた橙香を、さすがに私は止めた。


 元魔王の魂は死なないだろうけど、辺見くんは死ぬだろうからだ。そうしたら、面倒くさいことになる。

 ニュースで「女子高校生が同級生の男子高校生を教室の椅子で撲殺しました」なんて報じられたら、それこそ大騒ぎだ。きっと、石化、バーサク、カエルの3人が「こうなるんじゃないかと思っていました」とか、「アニメとか、ゲームの影響だと思います」とか、「近寄らないようにしていたんです。普通の人たちではありませんでした」とかエッ◯ス(旧Twitt◯r(お約束))でつぶやいてバズりを目指すに違いない。

 そういう心配がなかったら、私も机で橙香に加勢するんだけれど。


「とりあえず、共同戦線は張れるのかな、元魔王?」

 私の問いに、元魔王は頷いた。

 ちょっとしぶしぶって感じだったのは、気のせいに違いない。


「せめて魔力は戻してくれ。でないと戦えん」

「だめ。だって、橙香の頭の上に、星の雨を降らせるんでしょ?」

「だっ……、だーーかーーーーらーーーーーーっ!」

 あ、滅茶苦茶いらいらしているな、元魔王。


「信じてもらえないのは、前世から続く悪行のせいよ」

「まだ、なにもしとらんと言っておろうがぁ!」

「これからするって、そういう意味よね、今のっ!」

 さらに橙香が重ねて追い打ちを掛け、再び一触触発の雰囲気になった。橙香は再び椅子を振り上げ、じりじりと間を詰めている。


 そこへ……。

「やめなさいっ!」

 と、廊下を通りかかった保健室の女の先生が金切り声で乱入してきた。




 あとがき

ああ、不毛な喧嘩だwww

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