第8話 3日目の放課後2


 私の質問、「妄想ではない証拠はないの?」に対し、元魔王の顔は悔しそうに歪んだ。

「魔力を戻してくれれば、いくらでも見せてやる」

 ってね。


「そんなことはできない。2つの意味で」

 私はすかさず却下する。

 元魔王を信用できないのに、魔力を戻すことなんかできない。そして、そんなこと、どうやればできるのかが私にはわからない。さらに言えば、そもそもこの元魔王の話を私は信じていない。


「日に日に魔界への口は広がっている。もはや猶予はないのだ」

「証拠を見せてよ。証拠だ、証拠」

 時代劇のお奉行所の白洲で叫ぶような私の返答に、辺見くんは頭を掻きむしった。


 どうしよう?

 私、苦しむ元魔王の姿を見ていたら、なんかどきどきしてきちゃったよ。

 もっと苦悩させたいなんて、そんな欲望がむらむらと……。

 いかんいかん。これでは石化、バーサク、カエルの3人と同じになってしまう。いや、Sっ気があるだけ、もっと悪いかもしれない。


「じつは、もう一つ証拠はある」

「なら、それでいいじゃん。さっさと見せなよ」

 今度は橙香がツッコんだ。


「勇者が寄り道せずに転生していたら、その体内に聖剣タップファーカイトがあるはずだ。それを見れば信じざるを得まい」

「そういや、阿梨の魂の中にそんなんがあるって言っていたよね。それって、どういうもんなの?」

「聖剣タップファーカイトは、魂の剣なのだ。だから、ボールペン1本でも、そこにその魂が注入できれば剣となる。ただ媒介するものは強い方が良いのが事実なので、長い名剣の類であればより戦いやすいだろう。まぁ、最長でキロメートル単位にまでになるとはいえ、振り回せなければ意味はないだろうが……。

 とにかく、私の身体を傷つけることができる斬れ味を誇り、魔法をも無効にする力を持っているのだ」

「でっすソースでも簡単に傷つくくせに」

 橙香がいつものように一言余計なことを言って、元魔王は憤然とした。

 

 その間、私は私で妄想していた。

 セフィ□スさまの正宗みたいな刀に、その聖剣タップファーカイトを闘魂注入できたら、さぞやカッコいいだろう、と。

 私、もう少し髪を伸ばそうかな。

 その方が美しさも足されて、言うことないよね。きっと、戦いのさなかに顔にかかる髪は、凄惨なまでの美しさを……、うふうふうふ。

 うん、これはいい。

 って、そうじゃないだろ!


「逆に、画鋲にだって宿るんでしょ、その聖剣タップファーカイト」

「当然だ」

 私の質問に元魔王は答えた。

 ったく、いちいち偉そうだな。

 こっちは妄想に付き合ってあげているって言うのに。


「じゃ、その聖剣タップファーカイトを出すから、出し方教えて」

 私、立ち上がって教室後ろの掲示版に刺さっている画鋲を1つ、引っこ抜いた。

「正直、口に出したくもないが……。先ほど余の頭を殴ったであろう。それではいかんのだ。身体の動きは同じでも、怒りをもって相手を『斬る』のだ」

「斬る、ねぇ」

 そう言われても、今の私、怒りなんかないぞ。拳の真髄は極限の怒りと哀しみとか言ったような気もするけど、哀しみもない。


 ただ、手の中で画鋲を弄びながら辺見くんの元魔王だって言っている顔を見ていたら、再びSっ気がむくむくと心の中で噴き上がってきた。

 私、困り顔が好きなのかもしれない。

 いいのかな?

 いいよね?

 うん、本人が言っていることを本人で確認するだけだもんね。きっと大丈夫。

「えい♡」



あとがき

「えい♡」

漢字で書くと「鋭♡」

合わないwww

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