第5話 3日目の昼2


 すぅーっと、3人の顔色が白くなった。

 そのまま踵を返して、私の机の周りから去ろうとする。

 もちろん、私、その手を捕まえた。

 もっとも私の手は3本もないから、石化とバーサクの手だ。カエルのはぬめぬめしてそうだし。


「行かないでよっ。

 助けてよっ」

 私の声に、3人はとてもとてもわかりやすく動揺した。

 で、カエル、さっさと石化とバーサクの2人を見捨てて歩み去ってしまう。

 なんて酷いやつだ。きっと、血の色も緑色に違いない。


「あ、アンタにあげるから。

 私、いらないっ!」

 石化が叫ぶのに、私も叫び返した。

「待ちなよっ!

 協力するって言ったでしょ。欲しがってたじゃないっ。ありがたく受け取りなさいよっ!」

 そしたら、石化とバーサク、全身の力を振り絞って、半ば暴力的に私の手を振りほどいて逃げていった。

 まったくもー、なんだって言うのよっ。

 私だって逃げたいよっ!


 で、それを見ていた元魔王の辺見くんは、妙にしおらしい顔になった。

「済まないな。

 下等モンスターは、前世の記憶を持たずに生まれてくる。ただ、それでも自分を殺した勇者への恨みは、魂のどこかに残っているんだろうな」

「……お願いだから、止めてよ」

 そんなこと言われたって、なんの慰めにもならないどころか、自分が人殺しだったみたいな気持ちになるじゃんか。


「……辛さはわかる。

 済まないと謝るのも筋が違うのだが、一番いいのは前世を思い出してもらうことなんだ」

 元魔王の言葉に、私の胸の中にはむくむくと反感が湧いて出る。


「今の私は、今の私の人生を生きているの。

 勇者の人生、生きていないの。

 たとえ前世が勇者だったとしても、それを引きずらないといけない筋合いはないっ!」

「引きずらんといかんのだ」

 こいつもう、口調が16歳の男子じゃねーな。Yue Tube で見た、昔の白黒映画みたいな喋り方だ。


「なんでよっ!?」

「聖剣タップファーカイトで斬られてから、余は魔力が戻らんのだ。

 タップファーカイトでその効果を取り消してもらわないと、いつまで経っても……」

「魔力を取り戻したら、また悪さをする気?」

 私、今さらながらに元魔王の身長が高いのに気がついた。

 問い詰めながら、下からにらみあげている自分に気がついたからだ。

 なんか、いちいち1つ気がつくと、1つ悔しいな。


「お前の言う悪事など、余はなにもしていないではないか。

 前世の頃から、魔の眷属の我々より、人間の方が極悪で冷血だった。今でもそれは変わらぬ。

 だが、魔力があれば、眷属をいや、今回に限っては人間すら守ってやれる」

「……ものは言いようね」

 私はそう切り捨てたけど、実はなにも覚えていないからだ。前世でどういう経緯で魔王を退治したのかなんて、ね。そもそも、魔族がどういう存在かすらよくわかっていない。


 ……って、なんだ、私。

 勇者だった前提で考え始めているじゃん。

 またもや、魔王の手に乗せられるところだったかな?



「そもそもさ、橙香だって戦士とか言っているけど思い出していないじゃん。

 私も、これからも思い出せるとは思わないよ」

「人間とは厄介なものだな。

 なら、もういい。

 聖剣タップファーカイトだけは貰っていくぞ」

「だから、そんなの持っていないって」

 私の反論に、元魔王は深々とため息をついた。


「聖剣タップファーカイトは、魂の剣なのだ。

 だから、ボールペン1本でも、そこにその魂が注入できれば剣となる。そんなことも忘れてしまったのか?」

「ちょっと待った。

 その魂の剣とやらを持っていくってことは、私の魂はどうなるん?」

 私が深刻に聞いているって言うのに、元魔王ったら、薄くとはいえ笑いやがった。

 私は嫌な予感にぞくぞくした。




あとがきです。

ハロウィンのうちにアップしないと、とw


花月夜れん@kagetuya_ren 様から、ハロウィンのイラストを頂いているのです。で、いつもから8時間ほど前倒しです。

https://kakuyomu.jp/users/komirin/news/16817330666165296826

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