第4話 3日目の昼1


 で、昼休み。

 元魔王の辺見くんの話を聞くという名目で、話を録音してやろうと思った私の目論見は脆くも潰えた。

 それも、予想していなかった最も不愉快な形で。


 辺見くんはさっさと教室を出た。屋上で、私にとくとくとを語るためだ。

 ポーチを持ってそのあとを追おうとした私は、立ち上がるなり呼び止められた。

「ねぇ、五月女さおとめさん、話があるんだけど」

 私の机を取り囲む、険しい顔の3人の女子。

 まだ私、クラスメイトの名前と顔が一致していない。なのでこの3人、色合いから石化、バーサク、カエルと私の中でなんとなく区別をつけることにした。


「なぁに?」

「入学そうそう、調子に乗ってない?」

 椅子に座り直した私の返事に、白い石化から刺々しい言葉が返された。うん、石化だもんな、私、固まりそうだよ。

「なにがよ?」

 嫌な予感、それもなんとなく予測できたそれを感じて、私の声は低くなった。


 そしたら、今度はカエルが言う。

 うん、持っているものがカエルみたいに緑のものが多いな、こいつってば。

「辺見くんがカッコいいからって、アンタ、なんなの?」

 ええい、私が悪いんかいっ!?

 それにそう思うんなら、自分からあの元魔王バカに話しかければいいじゃん。


「逆よ、逆。

 私、いきなりつきまとわれて迷惑しているの。

 お願いだから、辺見くんに話しかけるとかして、私から引き剥がしてよ」

「ちょっとばっかし自分が可愛いとか思って、そういうことを言うのね?」

 なんでそうなる、バーサク?

 アンタは、バーサクだから、赤い顔して論理もないのか?


 てか、ありがちだなぁ。

 こうやってイジメが始まるのかぁ。で、被害者は私かよっ!?

 冗談じゃねーぞ。

 火消しは最初にしとかないと、えらいことになる。


「いや、マジに頼むけど。

 辺見くんがまた私に話しかけてきたら、またこうやって来てくれない?

 あなたたち、辺見くんがいいんでしょ?

 全面的に協力するから、私から引き剥がしてよ。協力するからさ」

 私、真面目に話して、頭まで下げた。

 なのに……。


「生意気だね」

「うんうん。身の程を知れって感じ?」

「言っとくけど、アンタなんか辺見くんとはつり合わないんだからね」

 石化、バーサク、カエルがそれぞれに言う。

 なんだよ、ソレ!?

 あの元魔王、見た目はいいけど、中身は残念なんだぞ。


「ちょっと!

 話を聞いてよ。

 私、そんな……」

 なんで日本語が通じないんだ?

 そういえば、橙香はどこに行った?

 孤立無援かよっ!?

 こんな理不尽なことってある!?

 一体全体、私がなにをした!?


 蟻地獄にはまったような気持ちになって、どうにも逃げられないまま私は黙り込んだ。

 なにを話しても無駄。そんな気がした。

 今年度はもう駄目だ。来年度のクラス替えに期待するしかない。


 そう覚悟した私に、いや、相手の女子たちに声が掛けられた。

「ご苦労」

 と。

 あ、元魔王が戻ってきた。

 私が屋上に行かないんで、しびれを切らしたな。


「あ、辺見くん♡」

「お昼、早かったね。もう戻ってきたんだ」

「『ご苦労』って、うふ♡」

 うええええ。

 私は、自分自身が女子であるにも関わらず、石化、バーサク、カエルの女子の媚のウザさに辟易した。


「我が眷属たちよ。

 気持ちはわかるが、今は勇者と戦うときではない。前世と違い、今世では事情が異なるのだ。見せかけだけでも融和しておかぬと、あとが厄介ぞ」

 ああ、辺見くん、元魔王だけあってブレないわー。

 私、ある意味で感動すらしちゃったよ。


 で……。

 3人の顔、それはもう、見ものだった。

 それでも、カエルはがんばった。

「辺見……くん?」

「なんだ、2等スライム?」

 げろげろ。

 すげーこと言うのな、この元魔王。いや、元魔王だから言うのか。

 で、2等兵みたいな階級があるんだね、スライムにも。




 あとがき

 見た目だけは良いのです、元魔王、

 見た目だけは、ね。


 ハロウィン魔王のイメージを、花月夜れん@kagetuya_ren さまから頂きました。近況ノートに貼ります。

 感謝です。


https://kakuyomu.jp/users/komirin/news/16817330666074253809


 そして、お読み頂きありがとうございます。

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