令嬢は婚約者をよく理解する


 それでカース様は、お友だちとは礼儀を忘れない時間を設ける決まりを作ったらどうかとご提案してくださってね?

 わたくしは、これが素晴らしい考えだと思ったわけ。

 それならわたくしたちもそうしましょうか?と今度はわたくしから提案したのだけれど。


 お友だちと将来夫となるカース様は違うと仰るわ。

 そもそも共に過ごせる時間の長さが違うから、同じように考えるべきではないと。


 確かにね、お友だちとは未来でも一日中一緒にいることは考えられないのよ。


 公爵夫人となれば、王都にいる時間が増えるでしょうし、お茶会で貴婦人方を集めることも多くなるわね。

 でもね、その場にお友だちだけを招待するわけにはいかないのよ。


 わたくしがいずれ公爵夫人となることも見込んでご紹介いただいているお友だちですからね。

 皆様とはずっとお付き合いがあると思うわ。


 でもそれは領地での関係の延長とは違うの。


 そのときに、今まで通り気楽におしゃべりしましょう、では困るものね。

 だからわたくしたちはいつも練習を欠かさないわ。


 将来、貴族夫人らしく振る舞えるように。

 わたくしも、お友だちも。


 

 うふふ。

 でもね、今の関係も続くわよ。

 結婚した後にもお友だちを邸に招いたらいいよってカース様が今から言ってくださっているから。


 わたくしの婚約者はそんな先のことまで考えてくださる、お優しい方よ。


 あら?



「どうせ私たちの仲を邪魔したかったんだろうが……ふっ、誰が邪魔などさせるものか。この程度で揺らぐ浅い仲では……しかし此度は油断したな。リリーの美しい目と耳を穢さぬように最大限気を付けていたつもりだが……まさか他にも愚かな令嬢たちがいたとは……しかし今のうちに対処出来たと思えば……いやしかし生温かったのではないか?生温かったよな?あれなど無視してやはり家ごと始末……」



 わたくしがお友だちのことばかり考えておりましたら、カース様がぶつぶつと呟かれておりましたの。


 もしかして、わたくしって一人で考え込む時間が長いのかしら?

 お友だちもこうしてわたくしに聴こえないお声で呟いていることがあるわ。


 人とお会いしているときに、考えに沈み込むようなことはいけませんわね。

 これからは気を付けないと。


 ぱちりと目が合ったカース様が微笑みます。

 紳士の仮面を感じさせない、柔らかな笑みでした。



「この庭の花々はいつ見ても美しいが、今日も君には勝てないようだね、リリー」



 それなのに出て来た言葉は、とても貴族らしかったわ。

 ふふ。さすがはカース様ね。





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