令嬢は新しい扉を開いていた

「……いけないのですか?」



 お友だちの一人がお返事をくれるまで、また妙な間があったような?

 これも気のせい……よね?



「えぇ、だめね」



 わたくし、盲目的な恋をしてみたいの。

 だからそれが彼ではとても困ることになるわ。



「それはあの方が例の男爵令嬢とお噂になっているせいですか?」


「確かに他のご令嬢と噂になるような殿方と恋をしたくない気持ちは分かりますね」



 わたくしは首を振りました。

 そうではないの。そうではないのよ。



「カーティス様と悲しい結末を迎えては困るわ」



 まぁ、またお友だちを驚かせることに成功したみたい。


 今日はこのお話をしたくてお呼びしたから、ちょうどいいわね。


 うふふ。白状するわ。

 あの彼女たちのことも。彼の噂のことも。

 本題に入る前の導入として使わせていただいたのよ。


 だってね?

 恋のお話だなんて。

 今までにお友だちとしたことがなかったから、どう切り出していいのか分からなかったの。


 お友だちもどれほどお勉強されているのか分かりませんでしたし。



「わたくし、あの日から少しは学びましてよ。えぇ、盲目的な恋について。お勉強してみたの」



 楽しくなってきましたわね。

 心が躍るわ。



「ふふふ。その恋の結末はね。すべてを捨てて駆け落ちするか、来世に期待して今世を諦めることになるか、その二択に決まっているのだわ」



 お勉強してみて、はっきり分かったこともあるの。


 どなたかだけに盲目となる恋をこれからいくら経験しても。

 わたくしはきっと何も捨てられないし、今世を諦めることもしないわ。


 何よりも前に侯爵令嬢なのよね。


 だから最後まで恋を楽しむことなく、お相手の方とはお別れすることになるでしょう?

 そう、わたくしならば恋の方を捨てるのよ。


 それがカーティス様では困るわ。



「……どちらでそれを学ばれまして?」



「教材として小説をご紹介いただいたの。おかげでよく学べましたわ」



「……さしつかえなければ、どのような小説を読まれたかお聞きしても?」



「もちろんですわ。わたくしが嗜んだ小説がこちらでしてよ──」



 侍女がワゴンを運んできてくれました。

 少し離れた場所におりましたのに、さすがのタイミングの良さね。

 お友だちが帰られた後に、褒めて差し上げるわ。



「ちなみにどなた様からのご紹介か、そちらもお聞きしても?」



 そうよね。そうよね。

 この素晴らしい数々の小説を教えてくださった方のお名前を知りたいと願うわよね。



「学園のパーシャル先生ですわ。素晴らしい(恋愛)小説を沢山お読みになっていらっしゃるの」




「あの古文学の教授でしたか」


「そういえばあの方、講義で使う教材に恋愛ものばかり選んでくるわね」


「時代背景的に恋愛小説が多いのだと思い込んでいたわ」


「あら、それは間違いないのよ?あの時代の古文書は、だいたい恋愛についてですわ」



 王侯貴族が恋愛のことばかり考えていた時代があるのですって。

 それも殿方もよ?

 とても信じられないわよね。


 周辺国との良き関係が築けていた時代だったからだと言われているわ。

 内政の争いごとはそれなりに起きていたけれど、すべて恋愛を通して行われていたのですって。


 意味が分からない?

 うふふ。わたくしだってすべては理解は出来ておりませんわ。


 だからわたくし、パーシャル先生に個人的に相談させていただいたの。

 古文学をより理解するために良い勉強方法はないかしらってね。


 そうしたら、言葉の理解しやすい現代小説を読むようにとすすめられたわ。


 彼女はとても素晴らしい先生なの。

 人生で得られる経験には限りあるけれど、小説では無限に体験出来る。読めば読むだけ人生を深められる。

 そのように熱く語って。


 教材としては、一番に悲恋ものをおすすめしてくださったわ。


 悲恋こそ小説の中で経験すべし!というお考えをお持ちなの。

 現実の悲恋は辛いから……と目を伏せて仰っていたのが印象深くてよ。



 それでね、悲恋のお話がまさに。

 恋は盲目の内容だったの。


「まずはこちらの小説からご紹介するわね。ある国の王女様が主人公のお話ですわ──」


 



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