令嬢はお友だちに布教する


「……流石のあの方も教授陣までには手を回せていなかったようですね」


「……そもそも伯爵令嬢の件も計算外だったのでしょうし。読みが甘かったのではないかしら」


「……仕方ないわよ。学園でこれほど想定外のことが起こるとは考えにくいもの」


「……パーシャル先生は大丈夫かしらね」


「……こうなってくると他の先生方も心配ですわ」



 お友だちの囁き声がやっと耳に入りましたの。

 わたくし、想いを伝えることに熱くなり過ぎていたんだわ。



「ごめんなさいね。話し過ぎてしまったわ。楽しくなかったかしら?」



「そんなことはありませんわ」


「今おすすめいただいた作品をさっそく購入して読もうと話しておりましたの」



 まぁ、そうでしたの。



「それには及びませんわ。おみやげにお持ちになって」



 大好きなお友だちですもの。

 この愉快な気持ちを共有させていただきたいわ。


 だから持ち帰り用に包んで用意してありますのよ。

 本に合う茶葉とお菓子も一緒に選んでおいたわ。



「まぁ、ありがとうございます。ではすでにあの方にもお渡しになられたので?」



「わたくし、そのような無粋なことはいたしませんわ」



 わたくしは胸を張って伝えましたの。

 恋をご経験中の彼に悲恋の物語をすすめるような真似、わたくしに出来ると思いまして?


 それに彼のことだから。

 わたくしよりもっと先のお勉強を済ませているに違いないもの。


 不勉強な今のわたくしには、悲恋の結末しか描けませんけれど。

 カーティス様には、お二人の明るい未来が見えている可能性もありましてよ?



 あら?どうしたかしら?

 お友だちのお顔色が青褪めて見えましてよ。



「寒くなってきたかしらね。温かいお茶、いいえ、そろそろ室内に移りましょう」



「いえ大丈夫です。これはそういうことではないので」



「でもそうですね。リリーシア様に何かあっては大変ですから。そろそろお部屋の方へ」



「まぁ、わたくしは平気でしてよ。うふふ。でもそうね。皆様にも何かあっては大変だもの。気分転換も兼ねてお部屋に移りましょう」



 お部屋に移動してからも、話題は小説の内容についてでしたの。


 読む前にお話をすべて聞いてしまうのは、良くないことでしょう?

 でもね、お友だちが皆様是非聞きたいと仰るから。


 だからわたくし、頑張りましたの。


 ここぞという部分は割愛しながら、いかに素晴らしい小説か。

 これを説明するのは、とても難しくて。


 またわたくし、自身の不勉強なところに気付かされましたわ。



 うふふ。次回までにもっとお勉強しておくことにいたしましょう。

 先生も布教がいかに大事かと仰っていましたものね。うふふふふ。




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