令嬢は婚約者を選ばない


 大変だわ。

 お友だちを心配させてしまったようね。


 わたくしを気遣って彼を悪く言って欲しかったわけではないのよ。



「わたくし、本当に何も気にしておりませんわ。こちらもいい経験が出来ましたもの。それにわたくしの不勉強にも気付けましたわ」



 うふふ。

 本当にね。

 本当にいいタイミングで、いい経験をさせていただいたの。



「わたくし、これから一層と恋について学びますわね」



 わたくしが宣言しましたらね。

 ふふふ。お友だちの皆様のお顔に驚きが見えましたわ。


 外ではないのだもの。

 内にあるときは、気楽に付き合いたいでしょう?


 だからこうして何かの折にお友だちのお顔に変化を受け止められるととても嬉しくなるわ。

 わたくしばかり甘えているのはフェアじゃなくてよ。



「盲目になる恋というのも興味深いわ。うふふ。実際に経験したら、わたくしはどうなってしまうのかしら?頭もよろしくなくなるのかしらね」



 あらまぁ、どうしたかしら?

 お友だちがわたくしを除いて、目を合わせているわ。


 わたくし、寂しくてよ?


 わたくしはコテンと首を傾げて、より甘えてみせましたの。



「わたくしにも経験出来ますわよね?」



 お友だちの反応がおかしいわ。

 いつものこの集まりでは、最初と最後以外は気を許し合いましょうね、とは言ってきたけれど。


 だってね。

 ずっと淑女の笑みでお話していても心から楽しめないわ。

 貴族らしく遠回しな言葉を選んでいたら、一言で済むお話も時間が掛かって仕方がないでしょう?


 でもね、ずっとそうしていたら。

 きっとわたくしたちは、他の人の目がある場所で集まっても、気が緩んで淑女らしからぬ表情や言葉を出してしまうと感じるの。

 それこそあの彼女たちのようにね?


 だから我が家で集まるときには、最初は基本通りの挨拶をして、しばらくは貴族らしく振る舞うわ。

 それからは紅茶のお代わりが合図よ。

 気を許して、楽しくお喋りをして。

 そうして最後には、また貴族らしくお別れの挨拶を交わすことになっているわ。


 そうね。

 そう考えると、彼女たちはやはり可愛らしいと思うわよ。


 だけど今日はいつもと違うわ。

 お友だちの反応が大き過ぎるように感じるの。


 何か慌てているような……?



「それはあの方とご一緒に経験していくということではなりませんか?」


 

 お友だちの一人がそう言うと、皆様口々に同意を示されました。



「そうですよ。そうしましょう」


「リリーシア様が望むもの、すべてを与えてくださる方ですし」


「婚約者様と恋をするなんて素敵だわ」



 どうしましょう?

 それでは困るの。



「カーティス様ではいけませんわ」




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