令嬢は心情を吐露する


 でもわたくしホッとしたわ。

 わたくしの大切なお友だちには、彼のことを好ましく想って頂きたいもの。


 よく知らない彼女たちでさえ。

 目のまえで婚約者を悪し様に言われたくないと感じたのね。


 そういえばそれも新しい発見だったわ。

 だってわたくしの前で、彼のことを悪く言う方なんておりませんもの。



 でも学園では違うわ。

 わたくしの耳にはどういうわけかあの一度以来入りませんけれど。


 彼の良くない噂が流れている。


 わたくし、噂のような彼の姿もどういうわけか見たことがございませんでしてよ?

 彼女たちから話を聞いて、周囲をよく見るようにしておりましたのに。


 だから本当に噂なんて流れているのかしら?

 実は人違いだったのではなくて?


 と疑ってもいたのだけれど。

 今ここにいるお友だちの誰一人も噂自体を疑ってはいないことが答えね。


 つまり、噂が流れることを許している……のでしょう?



「一体何をされているのかしらね?」



 わたくしはつい本音を漏らしてしまいましたの。



 駄目ね。

 貴族らしく、淑女らしく──なんて学園では常々考えておりましても。


 お友だちといると、こうして気が緩み、甘えてしまうのだわ。


 あの彼女も、お友だちに甘えていたのかもしれないわね?

 そう考えたら、また違って可愛らしく感じてきましたわ。


 あの方々の将来次第では、仲良く出来るのではないかしら?



 でもね。

 わたくしは侯爵令嬢だから。


 そして公爵家に嫁ぐ予定だから。



 出来ないこともあるわ。



「何か事情があって、今はまだ言えないのでしょう」


「すべてが片付いた暁には、真っ先にリリーシア様にお話をされると思いますよ」



 わたくしのお友だちは、婚約者の気持ちを断言することはそうはございません。

 そうは、というのは、稀にそうではなくなるからなの。


 不思議なのですけれど。


 お友だちはそういうとき、お互いに心から信頼し合っている様子で一致団結し、彼の気持ちを代弁するのですわ。

 彼女たちが言うには、周りから見ているからこそ、彼について分かることがあるのですって。


 わたくしには未だによく分かりませんのに。

 なんだか狡いと感じますのよ。


 疎外感を覚えるのですわ。



 わたくしが甘えて、顔を曇らせていたことを勘違いさせてしまったみたい。



「正直今回のご対応は尊敬出来ないものだと思いました」


「わたくしも同意します。あの方らしくないと思いましたね」


「リリーシア様から少々お灸を据えても、よろしいかと思いますわ」


 

 皆様が心配そうにわたくしを見ていました。



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