令嬢は自省して立ち去る
「……リリーシア様はどこまでもお優しいのですね。もしよろしければ、わたくしがあの男爵令嬢に一言伝えておきましょうか?」
不思議な不思議な伯爵令嬢は、不思議な間をたっぷり空けて、そのように仰いましたの。
それより大変よ?
お顔がおそろしいことになっておりますわ。
お勉強の時間を取られて来なかったわたくしの予測は、間違いなさそうね。
それとも、もしかしてわたくしに試練の機会を与えてくださっているのかしら?
どなたかの指示でそうしているのでしたら、出来は上々でしてよ。
だってわたくし、つられて顔を緩めてしまいそうでしたもの。
わたくしもまだまだね。
「一言ですの?」
内心では次はどんなお言葉を聞かせていただけるのかしら?と心を躍らせながら、わたくしは澄ました顔で問い掛けましたの。
いつも通り顔を作れておりますわよね?
この方々を目の前で見ていると、分からなくなってしまいますわ。
惑わされて、自信を失いそうよ。
「リリーシア様の婚約者様に手を出されたのですから。それ相応のお話をさせていただきますわ」
相応のお話ですって。
それって一言で済むのかしら?
どんなお話をされるおつもりか、詳しく聞いてみたいわね。
でも、そろそろおしまいにした方がよろしそう。
わたくしは、侯爵家の娘ですの。
「わたくし、争いごとは嫌いでしてよ?」
いつも通りでは何も伝わらないことは、もう十分に学びましたからね?
少々淑女らしからぬ発言を選びましたわ。
なのになのに。
どうしてかしら?
子爵令嬢が胸を叩き、自信たっぷりに言いましたの。
「おまかせください!秘密裏に伝えます!」
伯爵令嬢、それから他の令嬢たちもうんうんと同調し、会話には余計に熱が入っていくのでした。
わたくし、面白そうだとは思いましたけれど。
これ以上聞いていては、困りましてよ?
「申し訳ありませんが、この後予定がございますの」
去っていただけなかったのも、わたくしが未熟ということよ。
お勉強になりましたから、快く彼女たちに席を譲ることにいたしますわ。
わたくし、学園のお庭が良く見渡せるこの席を気に入っておりますの。
今日はいいお天気ですし、近頃は気温も高くなりつつあるでしょう?
最近仲良くなった方々がお通りになりましたらね。声を掛けて同席をお願いしようと考えておりましたの。
派閥を越えたお付き合いですからね。事前にお約束は致しませんわ。
けれども今日は致し方ありませんことよ。
残念ですけれど、また日を改めることにいたしますわ。
皆様、ごきげんよう。
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