第39話 16
眩い光が消えると、辺りからは
ダンジョンが消滅した事によって、ダンジョンだった場所はぽっかりと穴が空いた空洞となり、
「おわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
絶叫しながらも、カシアスのもとまで全速力で駆け抜ける。
こんな所で調子こいて生き埋めになったら、俺は助かってもカシアスは助からない。
さっきまで意気揚々と魔物を蹴散らしてイキリ散らかしていた自分が恥ずかしい。この土壇場で焦るのなら、もっと対策を練るべきだったかもしれない。
そうこう考えていると、カシアスのもとへ辿り着く。疲労困憊のカシアスは、肩で息をして今にも倒れてしまいそうなくらいには弱っている。
それなのに、意識を強く持ち俺を見つけると「アーガマか?大丈夫か!?」と他人の心配をする。
カイと同じで第一印象は最悪だったが、なかなかどうしてカシアスの事も嫌いにはなれない。カシアス・イオク、大した奴だ。
「カシアス立てるか!さっさとずらかるぞ!」
「なんだその盗人みたいな言い方は・・・というか、
「見てわからねえのか!?早く逃げねえと生き埋めになるぞ!」
「あ、ああ・・・そうか。なら、先に行け」
カシアスはそう言うと、俺の背中を押す。
なに言ってるんだとカシアスの腕を掴んで顔を覗くと、その目はもう虚と化している。焦点が合わず、本人は俺を見ているつもりなのだろうが、虚空を見つめて話を続ける。
「私は足が立たない・・・このままじゃ貴様まで生き埋めになるぞ」
「だから急げって言ってるんだよ!立てねえなら担ぐぞ!」
「ま、待て!辞めろ!」
手を振って身体を捩り拒否するカシアスを無理矢理担いで出口へと向かう。
プライドが許さないのか、カシアスは「降ろせ!」とジタバタ暴れているが、降ろすわけにはいかない。
もしそんな事をすれば、あんな事を言った手前カンポにだって面目がたたないし、ルカやロランにだって幻滅されるだろう。なにより、ここまできてカシアスを置いていくのは寝覚めが悪い。
出口に向かって走り続ける俺らを追うように、ダンジョンだった空洞は続々と崩落していく。
先程まで俺とカシアスがいた地点は既に埋もれて土の中だ。カシアスを担いでいるから、
だというのに、崩落のスピードはそれに引けを取らず、遂には追いつかれる。
体に土がかかり、ズシンとその重さをカシアス越しに受ける。
それでも走り続けているから、多少はかかった土を払えるが、それでも重さは体に残る。
「ぐ、ぬぉぉぉぉ!土って意外と重い・・・!」
「・・・バカが、さっさと私を・・・・・・置いて行け・・・」
カシアスは声を絞り出して言う。
既に限界を迎えていたはずだ。俺に担がれた事によって、張っていた緊張が解けたのだろう。
そのせいで一気に疲労に襲われ、今にも眠り落ちそうな顔をしている。
俺はそんな奴を置いていけるような非道な人間に思われているのだろうか。
だとしたら、とても心外である。
そうこうしていると、出口が見えてくる。ポッカリと穴が空いた先からは、月明かりに照らされた生い茂る草木が顔をのぞかせていて、辺りはそれ以外の灯りが一つもない。
まさか、夜になっているのか?そこまで長時間過ごしたのか?と疑うが、それよりも今は出口へ向かう事が先決だ。
しかし、カシアスを担いだままでは外へ出る前に二人とも土に埋もれてしまう。
だから、これは仕方ない。
「カシアス!歯ぁ食いしばれよ!」
「・・・は?アーガマ、お前はなにをーー」
「うぉら!飛んで行けぇ!」
「し、ぇあっーー」
俺の掛け声と同時に、カシアスは出口の方へ投げ出され勢いよく飛んでいく。
俺が担いで走った時よりも速く、カシアスは飛んでいく。間違いなくカシアスは失神するだろうけど、まあ大丈夫だろう。多分、おそらく、きっと
間抜けな体勢でされるがままに飛ぶカシアスがそのまま出口から出るのと同時に、元ダンジョンの空洞の全てが埋もれる。当然、それに追いつけなかった俺は生き埋めだ。
「まあ、生きてるんだけどさ」
そう言って、土に埋もれてモゾモゾと動いていると、カンポの声が響き渡る。
どうやら、カシアスを気絶はさせてしまったもののカンポ達の元へ届けられたらしく、カンポが「カシアス様!カシアス様!」と鬱陶しく叫んでいる。
カシアスの奴も疲れてるんだから、やすませてやればいいのになんて思ってると、今度はルカの声が耳に響く。
「シロウ!?シロウはどこ!?」
ルカは言って、ダンジョンの出口基入り口の土を掻き分け始める。
そんな事したって俺はもっと離れた場所に埋もれているのだから、無駄なんだけどな〜と達観していると、今度はカンポがカシアスを抱えて言う。
「この崩落で生きているとは考えにくい。アーガマ・・・まさか・・・」
「嘘、でしょ・・・?ちょっとシロウ!いるの!?出てきなさいよ!」
カンポの言葉に激しく動揺したルカの悲壮感漂う声は、正直言って聞き心地がとても良い。
このまま埋もれてずっと聞いていたいな〜なんて考えていると、それに水を刺すように今まで沈黙していたロランが口を挟む。
「シローなら大丈夫だよ。ボクにはシローの
お前は超能力者か。
そう言いたくはなるが、そう言えばセイラ師匠は魔眼で俺の身体チェックや状態をよく見ていた。確か、
つまり、同じ魔眼を持つロランには、俺が元気ピンピンで取り乱すルカの反応を楽しんでいるのがバレていたのだ。
やっちまった。
「出てきなよ。シロー」
ロランの声に肩がビクリと反応する。
それとなく感じる圧から、ロランが笑顔で言っている事もわかる。
どうしてか、何故だかわからないが、今のロランに逆らってはいけない気がした。
俺は無言のまま覆い被さった土を退けて立ち上がる。
ロランの一言でかなり気まずい空気の中姿を現すので「実は生きてま〜す・・・ハハ」と渇いた笑い声と共に軽口を叩く。
そんな俺を他所に、土埃で汚れてはいるが目立った外傷もなく至って健康的な俺の姿をみた一同は、安堵の息を漏らす。
「あんた!生きているならさっさと出てきなさいよ!」
「いや、土が重いから出てくるのに苦労しただけなんだって!本当だよ?」
「シロー、嘘だよね。土の中で楽しそうにしてたの伝わってきたよ」
「ロランくん、嘘はやめようね?」
「シロウそれ本当!?かなり心配したんだよ!?」
俺が歩み寄るや否や、ルカがガミガミと突っかかってくるので適当に嘘をでっちあげたら、ロランがそれを看破する。
それを聞いたルカが俺に掴みかかりあーだこーだ言っていると、今度はカンポが寄ってきた。な、なんだ!お前はカシアスを投げ飛ばした事の文句でも言うつもりか!
「すまなかった、アーガマ」
「えっ」
「カシアス様は気絶しているが、生きている。カシアス様を救ってくれて礼を言う」
「お、おう」
カンポは深々と頭を下げてから背を向けて「それでは帰ろう。夜も更けてきた」と言う。
その言葉に周りを見渡すと、確かに暗い。ダンジョンの中から見えた通り外は夜で辺りは真っ暗だ。
ダンジョン内では長時間過ごしたつもりが無いのだが、それでも夜になっていると言う事はダンジョン内と外の時間の流れが違うのだろうか。
新たな疑問が湧き出るが、もう関係ないかと舵を切る。
「じゃあ〜、帰りますか」
俺がそう言うと、カンポはカシアスを背負ってスタスタと歩き始め、ルカは俺の頭を叩いてから前を歩く。
なにも頭を叩かなくてもいいじゃないのと叩かれた箇所を摩っていると、ロランが腕にしがみつく。
「帰ろ!」
恨みを込めた視線を送るが、ロランはふふっと笑うだけだ。マジで随分と逞しくなったな。
そんなロランに腕を引かれて、俺らは帰路につく。
何はともあれ、カシアス救出大作戦は大成功のまま幕を下ろした。
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