第17話 2

 私は平民だ。

 でも、だからと言って貴族を羨んだりしない。

 私には父がいて、母がいて、姉がいて、妹がいた。父が稼いで、母が家事をし、姉が働きに出て、妹はよく遊び、その世話を私がする。

 金銭的に裕福では無かったけれど、心は豊かさに満ち溢れていた。幸せだった。


 けれど、幸せはずっとは続かない。


 私がまだ魔法が使える事を知らない時だ。妹がお使いに行くのを嫌がったので、代わりに私が行く事になった。

 いつも素直でお利口な妹が、わがままを言うのは珍しかった。「みんなでお出かけしよう!」なんて、もう少しで晩御飯の時間になると言うのに妹は言うのだ。

 たまに不思議な事を言う子だなとは思っていたけれど、この時に関しては異様だった。まるで、、妹はこの家から家族全員で出る事を必死になって父に懇願していた。

 今思えば、妹は何かしらの理由でソレを知っていたのだろう。それは、今となってはわからない。

 結局、そんな妹を心配して、私以外の家族は家に残って大泣きする妹をあやす事にした。私は、母から頼まれた調味料を買いに出かけた。


 買い物はつつがなく終わり、早々に帰宅する。私の家は、賑わいのある商店街から少し離れた林道を歩いた先にある。大魔力マナの結晶を利用した街灯も無く、辺りは暗いが、いつもの歩き慣れた道なのでさっさとぬける。

 林道を抜ければ、田畑が広がっていてその先にちょこんと立つ一つの家がある。それが私の家だ。

 家に着き、「ただいまー」とドアを開けて声をかけるが、誰もおかえりと返してくれない。


「おかーさん!買い物終わったよー!」


 そう言って玄関へ足を踏み入れると、頭を潰され、その中身を床へ撒き散らして倒れる無惨な父の姿が目に入る。


「え・・・?お父さん・・・?」


 父の頭の左半分はひしゃげており、中身が露わになっている。ポタポタと垂れる血と共に床に飛散した肉片の中には、潰れた目玉も転がっている。きっと、父の左目だろう。


「う゛っ゛・・・・・・!」


 父の変わり果てた姿を見て、胃から消化物が勢いよく喉元まで昇り、口から吐き出される。もう吐き出してしまったのだから意味がないというのに、私は手で口元を押さえて無駄に手を汚す。

 昼に食べた根菜を沢山煮詰めたスープが、黄色の吐物としてビチャビチャと音を立てて床へ落下しては、父の血と混ざり濁って変色していく。


「う゛ぅ゛ぇ゛・・・・・・ぁ゛っ゛・・・おと・・・さ・・・」


 吐物を全て吐き出して、父の冷たくなった体を見て改めて理解する。父は死んだ。


「ぁ・・・ぁ、ぃやっ・・・あっお父さん・・・!お父さん!お父さん!」


 父の体を揺さぶるが、当然反応はない。体は冷たく、なんだかいつもより体が硬い。触れば触る程、父が死んだ事を実感させられる。


「嫌だ!嫌だ!嫌だ!お父さん!ねえ!お父さん!起きてよ!」


 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。それでも、私は父に呼びかけるが、その声に父が応えてくれる事はない。

 冷たい父の横で泣いていると、奥の部屋からバタバタと騒がしい音がする。音のする方へ顔を向けると、扉が勢いよく開き、身体中アザだらけの姉が裸の姿で駆け出してくる。


「あ!ルカ!逃げなさい!はやく、逃げて!」


 端正な顔立ちだった姉の顔は腫れていて、鼻が折れ曲がり、歯も折れている。そのせいで、顔の殆どは血で汚れていて、それが髪にまでかかっている。あんなに綺麗だった姉の髪は見る影もない。

 姉が生きていた事の安堵と、姉の目も当てられない姿に思考は纏まらず、その場で固まっていると、姉の背後から野太い男の声が響く。


「逃さねえよクソ女ァ!大人しくしていろ!」

「あっ!」


 姉の背後から現れた男は、姉の髪を掴んで頬を殴る。床に倒れ込んだ姉は「やめて、やめて!」と強く懇願するが、男はそれを聞き入れずに姉の顔を容赦なく殴り続ける。

 暫く殴り続けた男は、満足すると殴るのをやめて姉の胸をいやらしい手つきで揉みしだく。気持ちの悪い表情で、気持ちの悪い手つきで、気持ちの悪い笑い声を出して姉の乳を貪る。

 男は荒い鼻息を姉の顔へ近づけると「股ァ開けよ」と囁く。男に貪られている間、無抵抗だった姉は黙って男の言う事に従い、あっさりと開脚する。


「あはっあはは!良い子だ良い子だ!」


 従順な態度の姉に満足した男は、父の骸の前で姉を犯す。


「やっぱり、母親よりお前だわ!お前の方が良いわ!」


 男はそう言うと、聞くに堪えない金切り声で笑う。そうしていると、また奥の部屋から二人の男が出てきて男の近くに立つ。


「ボスその女好きっすね」

「ボスぅ、アイツ動かなくなっちゃいましたよ。後はもうその女持って帰って愉しんでくださいよ」

「うるせえな、今良いところなんだからお前らはあそこに突っ立てるガキとでもやっとけよ!」


 ボスと呼ばれた姉を嬲る男は、私を目線で指して後ろの男達に怒鳴り散らかす。しかし、それを受けた男達は怒鳴られた事に萎縮する事なく歓喜の声をあげる。


「え!いいんすか!?どうみても初物ですよ!」

「俺はガキに興味ねえよ!今極上の女抱いてるんだから邪魔すんな!黙ってろ!」

「やったー!」


 思考は纏まらず、混乱して呆然とする私に男二人が近づいてくる。


「うわ、このガキ!ゲロ吐いてるぞ!汚ねえなあ!」


 一人の男がそう言って私の腕を掴むと、そこで私はやっと理解する。

 しかし、今気づいても遅い。必死に抵抗するが、男は大人しくしろと私の頬を強く殴る。それでも私は抵抗を続けるが、男はそんな私を見てニヤリと笑い


「お前に面白いものを見せてやるよ」


 と言って、私を強引に奥の部屋へ連れて行こうとする。抵抗するが、頬を殴られ髪を掴まれ大きな声で恫喝される。そんな私の状況に、さっきまで無反応だった姉が急に声を上げる。


「待って!妹には手を出さないで!せめて、その子だけは!」

「うるせえぞ!」


 また、殴られる。でも、今度は何度殴られても姉は声を上げ続ける。涙を流し「私ならなんでもするから」と、懇願する。しかし、そんな事をこの男達が聞き入れる訳がない。


「オイ、一人はコイツの口を黙らせろ」


 ボスと呼ばれる男がそう言うと「俺もこのガキでやりたかったんだけどな」と私の後ろにいた男が小言を言ってから離れる。


「で、黙らせるってどうやるんですか?抑えます?」

「バカが、自分のモノ咥えさせとけよ」

「あ〜!」


 納得のいった男は、徐に自分のズボンを脱がし、ソレを姉の顔に近づける。姉は未だ「ルカにも手を出すのはやめて!」と言っているが、それを無視して男は自分のモノを姉に咥えさせる。


「歯ぁ当てたらわかってるだろうな?」


 そう言われた姉は涙を流して抵抗する様な声を漏らすが、無慈悲に上も下も犯される。その様子見て男達はケタケタと不気味に笑う。異様な光景だ。


「ガキはこっちで俺とお楽しみな!」


 私を掴む男がそう言うと、力強く私を引っ張り奥の部屋へと連れて行く。「ほら、みてみて!」と男は満面の笑みで私に向き直り、部屋の中を指さす。


「・・・え」


 指をさされた奥の部屋には、母親がいた。


 部屋にいる母親は雑にベッドに放置されており、首が曲がっていて既に息はない。服がはだけ、髪も乱れていて、虚な目はどこを指しているのかわからない。私の母親と姉は、この男達の快楽の為に蹂躙された。

 それに、妹の姿がない。


「あ、妹?妹ちゃん?あの子は仲間が別の場所に連れて行ったよ。多分、今頃酷い目に遭ってるだろうね?」


 私の表情を見て察した男は笑顔で言う。私の顔が、みるみるうちに青ざめて行くのを愉しんでいる。


「じゃ、今からお前をママの前で犯すから!」

「ああ・・・あああぁ、ああああああっ!」

「おいうるせえよ!だまーー」


 その時だ。私の体の中で何かが巡る。ドクンドクンと脈打つモノは、私の手のひらまでグングンと昇り詰めると出口を探す様に渦巻き始める。それが、その手の平が、男に触れた途端、渦巻いていたモノが出口を見つけ溢れ出す。


「あぁ!?っあ!熱っ!あっアツい!アツい!」


 悲鳴をあげる男の体は。ジタバタともがくが、家に火が移る事はない。ただ、男の全身だけが燃えている。

 次第に声は止み、もがき苦しむ様も落ち着きを見せると、男の体は徐々に朽ちていく。

 私をここまで連れてきた男は、塵となって姿を消した。

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