第14話 7
カイの忌み子発言により、ロランは途端に狼狽し始める。十中八九、忌み子はロランの事を指しているのだろうが、何故そう呼ばれているかを俺は知らない。今はただ、ロランの事が心配なだけだ。
「い、いや・・・ボクは・・・」
「なんだ?オクトヴィル、この平民には話していないのか?」
「オイ、平民平民うるせえぞ。呼ぶなら名前で呼べ」
「お前の名前知らないんだよ。」
「ロラン?大丈夫か?」
「お前、今の流れなら普通名前名乗るだろ・・・?」
カイを無視して後退りするロランに声をかけるが、「そ・・・その・・・」と歯切れ悪く首を振るだけだ。
「カイ、急に忌み子ってなんだよ。お前がそんな事言ってからロランの様子がおかしくなっただろうが。謝れよボケ。」
「馴れ馴れしいぞ平民。いいか?忌み子ってのはなーー」
カイが説明しようという所だった。ロランは「待ってください!言わないでください!」と勢いよくカイの元へ突っ込み、カイ共々体勢を崩す。カイは尻餅をつき、付き人が急いでロランをカイから剥がそうとするが、ロランはそれに抵抗する。
「貴様!オクトヴィル!何をしてくれる!」
「言わないで!絶対に!今日だけでもいいから!お願いします!」
「クソ!どうせいつかバレるんだ!なら早いほうが良いだろ!いいか平民!よく聞け!このオクトヴィルはな、貴族の間で忌み子と呼ばれてるんだよ!何故かわかるか!」
カイは尻餅をついた状態で声を張って続ける。ちょっとした騒動の上に、その場所は学園のエントランスを出て少しした所だ。学園関係者や試験帰りの貴族連中は試験会場の時の様に人集りを作って見物する。
「待って!お願いします!お願いだから!シローにはーー」
「魔眼を持って産まれたからだよ!」
カイは俺の顔を見てそう叫ぶ。ロランが?魔眼を?
カイの言葉に衝撃を受けている俺を見て、ロランは「あっ・・・シ、シロー・・・」と声を絞り出して顔色を絶望に染める。
「・・・なんで?ロランは目が見えないんじゃなかったのか?」
「バカか!魔眼を隠すためにオクトヴィルはその汚らしい布を巻かされてるんだよ!」
「なんで、そんな事・・・」
「そんなの、魔族と同じ気味の悪い眼だからに決まってるだろうが!」
闇魔法と魔眼は魔族が持つモノ、だから人々はそれを持って産まれる人を嫌うとは座学でレイ師匠から習ったが、まさかここまで酷いとは思わなかった。世知辛いなんてモノじゃない。こんなボロ布を巻かせたクセに誰も手助けをしないなんてあんまりじゃないか。
それに気味が悪いだなんてとんでもない。魔眼とは言えど、普通の人より特殊な目ってだけで美しい綺麗な赤色をしている。セイラ師匠がそうだったから、俺にはわかる。
魔眼は怖いモノなんかじゃない。
「え?じゃあ、ロランって視力あるの?」
俺の問いにロランは「・・・あ、ある・・・よ・・・」と力なく答える。
「目元とか人に見せたくない傷とかあるのか?」
「な・・・無い・・・」
「へ〜、じゃあ目隠しなんていらねえじゃん」
そう言って、俺はロランの目隠しを取り外す。すると、周囲は騒めき初め、カイは「お、おまっ!お前何やってるんだ!」と慌てふためくが、そんな事はお構いなしにロランの顔を見る。
光に慣れていないから目を瞑っているが、目は次第に光に慣れて行き徐々に瞼を開く。
ロランが瞼を開くと、そこにはセイラ師匠と同じ赤色の眼が顕になる。
「なんだ、やっぱ綺麗じゃん。」
ロランの眼を見てポツリと呟く。涙に濡れた赤い瞳を大きく開けたロランは「本当に・・・?」と聞いてくる。嘘じゃない。夕日に照らされたロランの瞳孔はまるで宝石の様に輝いて見える。本当に、綺麗だ。見れば見るほど吸い込まれると言うか、ヤダ、ロランちゃんったら、お目々もパッチリしていてめちゃくちゃかわいいじゃないの。こんなかわいい子の顔を隠すなんて勿体無い事をする人もいたもんだ。
ロランの顔をじっくり見ていると、目端に涙が溜まっている事に気づく。堰き止めていた目隠しが外され、涙は重力に任せて下へ下へと流れていく。
「なんだロラン、お前泣いてたのか」
「だって・・・」
ロランは今も目の端からポロポロと涙を流している。ロランから取った目隠しも、分厚いからわからなかったが、内側は涙でしっとりと濡れている。
そんなロランの涙をそっと拭ってから気づく、めちゃくちゃキザな事を言ったししてしまった。幸い、夕日が当たっているお陰で俺が紅潮しているのは判り難いが、それでもこの行動は消せやしない。恥ずかしい。
「オイ平民、お前・・・何をやったかわかっているのか!?」
俺がロランと見つめ合っていると、またもやその時間を邪魔する様にいつの間にか立ち上がっていたカイが言葉を投げかけてくる。
「周りの声を聞いてみろ!お前ら大丈夫か!?こんなに目立ったら、学園での居場所がなくなるぞ!」
カイの言葉を聞いて周りの声に耳を澄ませる。
「オイアイツ、忌み子の目隠しを外しやがったぞ!」
「え、あの子ってあの噂のオクトヴィルの忌み子なの!?」
「うわぁ!魔眼が開かれたぞ!」
「目隠し取ったアイツ!今朝試験会場でも問題起こした平民じゃねえか!」
確かに、ギャラリーが様々な反応を示しているが、それが何だと言うのだろうか。
「モブの評価は気にしない。俺のスタンスだ。」
「モ、モブ?俺ら貴族はお前よりも遙かに尊い身分の存在だぞ!それをモブだと!?」
「ああ、そうだよ。魔眼程度にビビってる奴らなんざモブだよ。」
「ま、魔眼なんか!?お前、魔眼を何とも思わないのか!?」
「思わないね。魔眼なんて、人よりちょっと動体視力が良くなるだけの眼だろ。そんなもん、普通の眼だって鍛えればなれるさ。」
俺の言葉を受けて、カイは何を言っているんだコイツはと言わんばかりの表情で唖然と立ち尽くしている。
「じゃ、俺帰るから。わざわざ心配してくれてありがとうな。」
「なっ、し、心配なんかしていないぞ!」
「はいはい」
嘘つけ、お前さっき俺らの学園での居場所が無くなるって心配そうな顔で言ってただろうが。ツンデレかコイツは。
「ほら、ロラン。家まで送るよ。」
「・・・えっ?あっ、ありがとう」
呆けているロランの手を取って俺は歩き出す。今日は色々あった。マジで色々あった。ロランと知り合って、ルカに冤罪をふっかけられて、ウェインさんに迫られて、めちゃくちゃ大変だった。でも久々にこんなに人と話したな。
「待て」
ロランと二人でこの場から去ろうとすると、またカイに呼び止められる。カイめ、三回も俺とロランの時間を邪魔しやがって
「今度はなんだ?」
そう言って振り返ると、カイは真剣な表情で
「名前を教えてくれ」
と、言う。他には何も言わない。
そんな真剣な顔で聞かれたら、答えない訳にはいかない。
「シロウ・アーガマ。好きに呼べ」
それだけ答えて俺とロランはその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます