第12話 5

 中途半端に拗らせた人間不審だからこう言う事になる。

 あんな大勢の前でロランに白杖を出させる事を渋るなんて、アホらしい。今日出会ったばかりの人間なんだから、気にしなければ良かったのにそれができなかった。


「どうしてかなあ・・・」


 俺は待機室とは名ばかりの隔離部屋で一人呆けていた。

 朝のあの件から、すれ違う人々に婦女暴行の疑いをかけられ、ヒソヒソと後ろ指を指されていたから、まあこの措置はありがたいけどね。

 さっさと終わらねえかなぁと考えていると、個室のドアがノックされる。「はい。」と俺が返事すると、「失礼します。」と一人の女性が入ってくる。


「アーガマさん。どうぞ、面接室へ」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 それにしても綺麗な女性だな。堅苦しい服装に堅苦しい眼鏡、いかにも仕事ができそうな装いで人を寄せ付けないオーラをバシバシと放っているが、普通にめっちゃ美人。この世界って顔面偏差値高いよなぁ・・・師匠然りルカ然り


「それと、アーガマさん。」

「はい?」

「なにかあれば、大声でガルアドットと叫んでください。」


 突然の言葉に意味もわからず固まる。え?なに?何か試されてる?


「えっと、その、それは・・・?」

「失礼、私はガルアドットと申します。面接室にいるウェインは大変不躾な人ですので、もし何かあれば私を呼んでください。部屋の外で待機していますので」

「わ、わかりました・・・」


 い、一体中では何が行われると言うのだ。怖い!行きたくねえ!どうせ試験前の騒動で落とされる事はわかりきっているんだ。面接なんて受けずにどこか遠い場所へ行きたい。

 セイラ師匠から渡された金は全然手をつけていない。これを物置にしてる村の家に置いたら、他国を放浪でもするかなぁ


「では、どうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 しかし、今はガルアドットさんに退路を塞がれている。やらざるを得ないと観念して扉を四回ノックする。高校入試の時もこんな感じだったなあと過去を懐かしんでいると、程なくして「どうぞ」と、中から声がした。

 これから放浪するであろう他国に思いを馳せながら、「失礼します」と声をかけて扉を開ける。


「シロウ・アーガマと申します。本日は、よろしくお願いします。」


 緊張の欠片もない挨拶をかます。面接官からしたら、コイツ舐めてんのか?って思うだろうな。でも、落ちるのがわかっている面接を真面目に受ける奴はいない。適当にやって適当に帰るさ。

 しかし、面接室内にいる男性は一向に俺に声をかけない。どうぞって言ってくれないと席に着けないんだけど、もしかしてこの世界にそう言う習慣って無かったりするんだろうか。


「・・・キミはアーガマと名乗っているそうだが。」

「えっあっ、はい。そうです。」


 渋く低い声が静寂な部屋に響く。そう言えば面接官の男性、どこかで見た事あると思ったら俺らの騒動を治めた人じゃないか。名前は確か、ウェイン。


「どうして、その姓を名乗っている?」

「どうしてと言われましても・・・」

「その姓の"価値"をわかっているのか?」


 価値?セイラ師匠達の家名が?一体どう言う事だ。


「この姓は師匠に譲り受けたモノなので、価値とかどうとか言われても・・・」

「師匠?アーガマの姓を名乗る人が他にもいるのか?」

「え?ええ・・・居ますけど・・・」


 ウェインさんは妙にアーガマという姓に食い付く。確かに、師匠達は魔族の王を封印させたが、それは何百年も前の事だ。たかだかアーガマという姓一つだけでこれ程騒ぐ事じゃないはずだが。


「師匠はどこにいる?」

「黙秘します!」

「どんな人だ?」

「黙秘します!」

「どんな修行をした!?」

「黙秘します!」


 何だこの人!?ガチでヤバいぞ!何でこんなに俺の事を根掘り葉掘り聞いてくるんだ!

 そう呆気に取られていると、ウェインさんは徐に近づいて拳を突き立ててくる。その速さと言えば、常人じゃ目で追えない程だろう。正直、俺も反応するのが面倒な程に速い。

 そんなウェインさんの拳をいなして「これなんなんですか?面接ですか?」と聞くが、返ってくるのは不適な笑みだけだ。気持ち悪い。


「そうか、そうかそうか。これをいなすか。やはりな、やはりアーガマの名だけあって・・・ふふ・・・ふふふ・・・」

「えっと、あの、帰っていいですか?」

「待ってくれ!キミと俺ではどっちが強い?どう思う?キミから見て、俺は弱そうか!?」


 ヤバそうにしか見えねえよ。と言うかやべえよ。興奮し過ぎて目が血走っている。早く帰らせてくれ。


「キミの強さは相当なモノと見込んだ!どうだ?これから私と手合わせをしないか!?」

「うわ!近寄るな!た、たすけて!ガルアドットさん!」


 俺がそう叫ぶのと同時に扉は勢いよく開かれる。それに驚いたウェインさんは「何故キミがその名を知っている!?」と驚いているが、驚きたいのはこっちだよ。


「待て、ガルアドット女史!私は今、とても大事な話をしているんだ!」

「いえ、待ちません。アーガマさんが助けを呼んだ以上、私が介入します。」

「オイちょっと待てキミ!この部屋は盗聴ができない様魔法が施されているし、防音の魔法もかけてあるはずだ!なのになんで彼の声がキミの耳に届くんだ!」

「私に助けを呼んだ。それだけです。」

「説明になってない!・・・ちょっと待て何だその物騒な代物は!この部屋に関係ないだろ!」


 あれだけ騒いでいたウェインさんは、ガルアドットさんが持ってきた鈍器で容赦なく殴打されていく。それでもウェインさんはダウンする事なく、「ごめんごめんごめんごめんってジェンちゃん!許して!死んじゃうおじさん死んじゃう!」と常に余計な事を口にしては更に殴打される事を繰り返している。

 何なんだこの人・・・。


「アーガマさん、本日は大変申し訳ありませんでした。」


 一通り殴り終えたガルアドットさんは俺に深く頭を下げてくれる。今すぐこの場から立ち去りてえ〜


「面接はこれにて終了いたします。今日は、ありがとうございました。」

「い、いえ、こちらこそ・・・それでは失礼します・・・」

「お気をつけてお帰りください。」


 そう言って深くお辞儀するガルアドットさんに背を向けてこの部屋から退出しようとすると、ウェインさんが「シロウくん、キミは合格だ。この学園への入学を認める!おめでとう!」と、ガルアドットさんに頭を踏まれた情けない状態で合格通知を言い渡す。


「えぇ・・・マジかよ・・・」


 晴れて入学は決まったが、この人がいる学園に通うのか。前途多難だ。

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