ヘムズワース学園の入試

第8話 1

 そんなこんなでやってきた王立ヘムズワース学園の試験会場。師匠達と別れてから四日ほど歩いてやっと辿り着いた学園、気持ち的にはゴールしたものだが、本番はここからだ。


 クソデカい会場内には数えるのも辟易する程の長机と椅子が置いてある。

 机と椅子にはそれぞれ番号が振ってあり、それが受験番号になのだろう。この大量の机の中から、自分の番号を見つけてその席に座らなきゃいけないのだが、探すのめんどくさいな。俺の受験番号は五百五十九番だ。結構人数いるじゃねえか。

 どこが自分の席か探すのも面倒で呆然と立ち尽くしていると、後ろから硬めの物が床にリズムよく当たる音が聞こえる。まるで、白杖を突く様な音だ。

 後ろを振り返ると、まるでというか、まんま白杖をついている小柄な受験生がいた。

 透き通る様な綺麗なセミロングの銀髪に、真っ白な肌が特徴的な子だが、それよりも強い印象を与えるのは、目を覆い隠している布だ。

 上等な布とは思えない、ボロボロな布。しかし、ガッチリと目を覆い隠す様に巻かれている布は、儚げな銀髪と対照的で歪な印象を与える。

 その子は先程から白杖をついて歩いているが、周りの人間は誰も近づかない。寧ろ避けているまである。

 胸元を見れば萌黄色のワッペンがある。男爵の息女だろうが、それなのに誰も手助けしないのか?付き人はどうした?他の受験生は付き人を従えていると言うのに、この子は一人だ。周囲の人達も薄情すぎやしないか?女の子だろこの子、もう少し優しくしてやれよ。


「大丈夫か?座席まで、案内しようか?」


 流石に居ても立っても居られず、声をかける。すると、「えっ・・・ボク?」と不安気な声を漏らす。オイ、この子ボクっ娘かよ。

 声をかける為に近づいてわかったが、このボクっ娘かなり顔が整っている。目を怪我でもしたのだろうか、こんな布巻いて勿体無い。チャームポイントの太眉も可愛らしい。


「ボクに対して・・・なの?・・・あ、ですか・・・?」


 ボクっ娘は恐る恐るといった様子で問いかける。


「そうだが。」

「えっ!?あっ・・・あの、ありがとうございます。だ、大丈夫です・・・一応、・・・」

「・・・?みえている?大丈夫って本当にか?」


 だったら白杖いらないだろ、なんて言葉は野暮か。何か事情があるのだろう。しかし心配だ。


「だ、大丈夫です。本当に、本当に・・・」


 そう言って去る彼女の背中を見送る・・・事はなく、ついて行く。転んだら大変だし。


「ど、どうしよう・・・ついてくる・・・ボク、何かしたかな・・・」

「いや、転んだら危ないから念の為後ろを歩いてるだけ。」

「え!?き、聞こえてた!?す、すみません!そ、その声をかけられたのは久しぶりなもので・・・」


 彼女は慌てた様にこちらを振り向いて頭を下げる。急に回転すると危ないよ。


「気にするなよ、俺が勝手にやってる事なんだから。」


 俺の言葉を受けて、彼女は少しホッとした表情を見せた。そんな彼女をみて「それに心配なんだよ。綺麗な肌なのに、傷がついたら嫌だろう?」と続けて言うと


「えっあっ、あっ・・・えっ・・・と、あぇ」


 と、彼女はわかりやすいくらいに頬を紅潮させて声にならない声を漏らす。セイラ師匠みたいで面白え〜


「番号いくつ?探すの手伝うよ。そっちの方がはやいでしょ?」

「は、は、はひ、あの・・・えっと、五百五十七番です・・・」

「えっ、嘘、マジで?俺、五百五十九番!番号近いじゃん!運命じゃんね、コレ」

「・・・うん・・・めぃ、あっ、はい!そう・・・です!そうです!」

「んじゃ、俺の肘に腕通して。座席探すよ。」

「あっ、はっはい!」


 そう言って、彼女は俺の腕にしがみつく。この子マジで素直で可愛い子だな。このまま貴族社会に放り込まれたら、コロッと騙されてとんでもない負債を抱えてきそうだ。守ってあげなきゃって気になるね。


「あ、あの」

「どうしたの?」

「名前・・・ボク、ロラン・オクトヴィルって、言います・・・」

「ああ、俺はシロウ・アーガマ。よろしくな、ロラン。」

「う、うん!よ、よろしく・・・えへへ・・・」


 ロランは照れくさそうにはにかむ。マジで一挙手一投足が可愛いな。

 しかし俺らの座席が見つからない。今いるところは三百のエリアだ。五百どこだよ。

 そんな事を考えていると、ロランは拙いながらも話しかけてくる。この子、探すより俺との会話を優先してるな?まあ、目が見えないんだから下手に動かれるより良いんだけども。


「ね、ねえ、名前は・・・なんて呼べば、いい?」

「士朗で良いよ。好きに呼びな。」

「シロー!シローって呼ぶよ!」


 そう言うとえへへと笑うロランには、尻尾がついている様にも見えてくる。犬っぽい子だなロランは。「白杖しまってもいい?」って聞いてくるし、仕草が一々可愛いし、ロランの持ってるコンパクトに折りたためる白杖は俺の男心をくすぐるし、この子最高だな。

 さりげなく敬語からタメ口になっている所もポイント高い。


 そうやって、ロランとの会話を挟みつつ、通路を歩いていると座席も四百のエリアへ差し掛かってきたところで


「平民風情が!なんて態度を取りやがる!」


 と、一際大きな声が上がった。

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