第4話 3

 俺の名前は浦木士朗、数十年前にこの世界へと召喚されてから修行を詰め込まれる日々を送っていたが、目が覚めたら体が縮んでしまっていた!


「またかよ!なんでだよ!」


 俺は飛び起きてセイラ師匠の方へ向き直る。


「せっかくあそこまでいったのに!これじゃいちからやりなおしじゃん!」


 またしても五歳くらいに戻しやがって、俺の今までの苦労が泡になったじゃねえか。


「でもこれは修行にとって必要な事よ。士朗は私達と違って普通に老いていくわ。三百六十九年も生きられないでしょ」

「それはそうだけども」

「だからこうやって何十年かに一度体を元に戻して鍛え直すのよ。それに結構良いのよ、このやり方。」


 セイラ師匠の言葉に少し考え込む。確かに、記憶はそのままで体も日々の鍛錬を覚えている。この状態でやり直せば以前より効率よく鍛えられるかもしれない。


「悪い事ばっかじゃないのよ。体を元に戻すだけだから、記憶は保持し続けられるし、老化による物忘れもないわ。小魔力オドも記憶と同じで、拡張した分はそのままなのよ」


 なんて都合が良いんだ。マジかよ、つまり強くてニューゲームって事?最高じゃねえか。


「でもそれってどういうげんりなんですか?」

「ごめんなさい。それはわからないわ。」


 わからんもんを人に向けて放ってたのかよ。普通に怖いわ。セイラ師匠、マッドサイエンティストの素質あるよ。


「そうときまれば、しゅぎょうですね!もっとつよくなります!」

「あ!待って士ーー」


 クソガキと化した俺は、セイラ師匠の静止を聞く間もなくフルチンで部屋を出てノア師匠の元へと駆け出す。強くてニューゲームだぞ!興奮せずにはいられない!


「お前バカだろ・・・」


 ノア師匠の元へと駆けつけると、開口一番がそれであった。


「体は元に戻ってるんだ。体力は小魔力オドと違って元通りになる。昨日までの特訓なんてできる訳ないだろ。」

「た、たしかに・・・」

「ちょっと士朗!服!」

「な、なんですかこの状況・・・」


 フルチンで唖然とする俺、溜息をつくノア師匠、急いで俺の服を持ってくるセイラ師匠、たまたま居合わせただけのレイ師匠。そこには地獄絵図が完成していた。



 それからは第二段階へと進んだ修行をコツコツと積み重ねていく日々が続いていった。

 体術と剣術に関しては体の成長に合わせて内容を変えていったが、前回よりはアザの数も減り効率良く立ち回れている。しかし、頭と体は動きを覚えていても、体力がそれについて来る事ができない。当然ぶっ倒れた。

 魔法に関しては魔法のコントロールが加わった。前回は適当にバンバン連発するだけだったが、今回は目標物に目掛けて魔法を放つ。これが意外と面白い。夢中になって続けていると、小魔力オドは枯渇して結局ぶっ倒れた。それでも前回に比べれば小魔力オドの容量が増えてるのは体感でわかる。俺、成長してるなぁ〜



 第二段階に進んでから二十年程過ぎたある日、俺はまたしてもセイラ師匠と同衾していた。というか、ここ数十年は毎日セイラ師匠と同衾している。最初の頃は慣れなかった美少女面も、五十年近く見ていれば慣れるものだ。今じゃ同衾していてもぐっすり熟睡できる。流れでずっと同衾していたが、慣れって怖いもんだなぁ

 いつもの如くセイラ師匠を抱き枕代わりにして呆けていると、俺の胸に顔を埋めていたセイラ師匠が「そういえば〜」と顔を上げる。


「士朗には魔族の王が復活とされる年の二年くらい前にはヘムズワース王国の王立ヘムズワース学園へ通ってもらうわ。」

「・・・・・・どこ?」

「世界中の有望株が集まる学園よ。そこで、王に対抗する時の為に心強い仲間を見つけて来るのよ。」

「え、はぁ」


 俺は魔族の王とやらを倒すことを了承してないんだがなあ

 俺が倒してしまったら、師匠達は呪いが解けていつでも自死できる状態になるのだから、どこか死を望んでいる表情をする師匠達を見て協力したいとは思わない。

 それだったら魔族の王が復活しても放置で良いんじゃないだろうか。ぶっちゃけ他の人間とかどうでもいいし、師匠達は絶対に死なない訳だし、俺はその時辺境の地でスローライフでも送れば良いんじゃないかな。他国に行ってしまえば、流石に師匠達も俺を探すのは不可能だろう。

 それがどれだけ自己中心的な考え方だとわかっていても、多分俺はそうする。

 でも、それはそれとして学園に行くのは賛成だ。いい加減真新しい物に触れたい。毎日毎日見飽きた森の中って結構キツイからな。


「学園に行けば今みたいな鍛錬を毎日する必要はないわ。それまでにはかなり鍛えられるでしょうし」

「師匠達はついてこないのですか?」

「無理よ。私達はついていけない。全寮制だもの。」


 マジかよ!やったぜ!師匠達の元から離れて束の間の休息を味わえるのかよ!俺の心は狂喜乱舞だ!

 そんな俺を強く抱きしめてセイラ師匠は「寂しくなるけどね。」とポツリと呟く。確かに、師匠達と離れて生活するのは少し寂しい気はするな。家族みたいなものだし。


「でもね。ヘムズワース学園に入学するには試験を受けて合格しなきゃ行けないの」

「まあ、そうでしょうね」

「合格できなきゃここへとんぼ返りよ。更にキツイ修行をつけるわ。」

「・・・それはそれは・・・・・・はは・・・」


 なんとしても合格して入学しなくては。そうしないと夢にまで見た自由な生活をこの手にできないし、何より更にキツイ修行なんてやりたくねえ!なんとしても入学してやる!

 その為にはと俺は拳を強く握りしめて決意を新たにする。


「セイラ師匠、俺合格しますよ。」


 俺は握りしめた拳を見つめて誓う。残りの修行期間を死に物狂いで乗り越えて、いつか夢見た学園じゆうな生活を送ってみせる。その為なら頑張れる。


「うん、応援してる。」


 セイラ師匠はそう言うと、再び俺の胸に顔を埋めて寝息を立て始める。寝るの早いなこの人。


「大体三百年後か。・・・やるぞ。」


 目標の日まで気の遠くなる程長いが、それでも俺のモチベーションはかつてないほど上がっていた。ゴールが見えた気がしたからだ。やるぞ、俺はやってみせる。


 待ってろ!ヘムズワース学園!

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