第3話 2
子供の体では逃げ出す事も叶わず、嫌々でも修行に付き合うしか選択肢はなかった。
あれから何年何十年もの日々が過ぎた。
修行とは名ばかりの拷問の下、様々な分野を納めて来た。
魔法の師匠はあの少女だ。名前はセイラと言う様だ。
そのセイラ師匠の修行は主に人間が持つ魔力、
その為、来る日も来る日もセイラ師匠の教える呪文を唱えてはぶっ倒れる日々を繰り返していた。
体術の師匠は筋肉の青年で、名前はノアと言っていた。
ノア師匠はとりあえず、俺の肉体を極限までいじめた。いじめにいじめていじめ抜いた。
難しい事を考える必要は無かったが、基礎体力を付ける為に走り込みをやらされ、技を覚える為にノア師匠の技を全て受けた。プロレスかよ。
おかげで受け身は上達し、ノア師匠が知る限りの武術を体と脳に叩き込まれた。
当然、ぶっ倒れた。
剣術の師匠は眼鏡の青年だった。名前はレイと名乗っていた。
あらゆる流派の対処法を叩き込まれたので、特定の剣術を教わった訳ではないが、木剣を打ち込まれない様にする為に自然と剣術の型が決まって行った。
それでもやはりレイ師匠には敵わない。腕何本あるんだよってくらいの剣戟を喰らわされた挙句、「後ろにも目をつけろ!」と理不尽な事を言われる始末。ニュータイプかよ。
そのせいで、身体中はアザだらけだが、体術の修行でついたのか剣術の修行でついたのかは識別不可能だ。
それはそうとぶっ倒れた。
そして最後は座学だ。教鞭を振るうのは主にレイ師匠。
この世界の歴史や文字を教えてくれた。
例えば、
しかし例外もあって、樹の魔法属性に適性のある人は限定的だが、
逆に土岩草木花や精霊といった自然界が産んだ産物は使う事は無いものの、
しかし、そうなると魔法が貴族しか使えないのはおかしな話だ。
それと俺は貴族じゃないのに何故か魔法が使える。異世界転移の特典みたいなものだろうか。
魔法をバカバカ使うセイラ師匠は貴族なのかとも聞いた。「ひ・み・つ」と微笑むだけだった。教えてくれよ。
他にも魔法には属性がある。
基本属性の火、水、風、土の四種は魔法の使える人なら誰でも使える様だ。それに加えて、雷、樹、光、闇は適性が無いと使えないみたいで、俺には特性が無かったが、セイラ師匠は樹の適正がある様だ。正直羨ましい。
そして魔族についてだ。
魔族とは、人と似た見た目をしている生命体の事だ。
人と違うのは魔族全員が、赤い瞳の魔眼を持ち、闇魔法以外の魔法適性がない。また、どの魔族も例外なく闇魔法を使える。
だからこそ、魔眼や闇魔法は人々の間で嫌われている。持っているだけで忌み嫌われる存在へと成り変わる。なんて世知辛い。
セイラ師匠も魔眼を持っているそうだ。弟のノア師匠とレイ師匠は澄んだ青い瞳なのに対して、セイラ師匠は赤い瞳だ。若い頃はそれで大変な苦労をしたらしい。
それもこれも過去にあった魔族の領土侵攻問題があったからだろう。沢山の人が犠牲になった大きな戦争が過去に起きたのだ。だから魔族の使う魔眼や闇魔法は忌み嫌われるのだろう。
そして、人と魔族を比べる大きな点がもう一つ。
それは、魔族には感情が欠如している点だ。
人は喜怒哀楽を表現できるが、魔族はそれを上手く表現できない。慈しむ事ができない。笑い合う事ができない。哀しむ事ができない。しかし自身のプライドを踏み躙られて怒る事はできる。不器用な生命体だ。
怒りに身を任せて人の住む街とかを襲撃していたが、先の戦争で魔族を束ねていた王が師匠達によって封印された。それからは魔族達は鳴りを潜めている様だ。
そういった座学を納めて一日を締める。そう言う流れが続いていたある日。
「明日からの修行は第二段階へと移る。今までより厳しくなるぞ。」
そう言うノア師匠の言葉を聞いて俺は脱走を決心する。
これ以上厳しくなる?やってられるかよ!俺は帰らせてもらう!
ここに召喚されてから何年も経っている。身体は二十代後半くらいだ。コンディションもバッチリだし、脱走行けるだろコレ。
そう思っていた時期が俺にもありました。
意気揚々と脱走の計画を立てて実行するや否や師匠達にすかさず連れ戻される。脱走なんて無理だ。
「なんで脱走しようとしたんだ?」
「俺は師匠達以外の人間と触れ合いてえ!」
「後数百年我慢する事はできませんか?」
「無理です!絶対!無理!」
ここ数十年外界に触れてないから、性格は変わる事はなく人間不信のままだ。もちろん他の人間と触れ合いたいなんて大嘘である。しかし、師匠達も人の子、少し同情を誘えば数日の休暇は与えられると思って「他の人と話したい!友達欲しい!」と嘘を吐く。
「仕方ないわね。だったら今日は私が一緒に寝てあげるわ。それで我慢して?」
セイラ師匠が言う。俺と師匠が同衾?寝れないぞ
「人肌寂しい時もあるわ。今日はたくさん甘えて良いのよ。そしてゆっくり寝て」
甘く優しい声でセイラ師匠は俺の頭を撫でる。だから寝れないぞ。
見た目は見目麗しい美少女なのだ。同じ布団で寝れる訳がない。しかし、それでも、その流れで同衾する形となった。
「師匠達は歳いくつなんですか?」
ドキドキと跳ねる心臓を誤魔化す様にセイラ師匠へ声をかける。「女性に年齢を訊くのは失礼よ」と笑いながらもセイラ師匠は続けて答える。
「もう数えていないわ。私達は不老不死の呪いをかけられているから」
「不老不死の呪い?」
「そう。魔族の王を封印する時に、私達は呪いをかけられたの」
だから死ねない。セイラ師匠はその言葉を飲み込んだのだろう。師匠達は時折生きているのが辛そうな顔をする。そんな顔を日本で沢山見たからだろうか、それが俺にはなんとなくわかる。
「師匠は死にたいのですか。」
「そうね。そうかも。疲れちゃったから」
「復活する王を俺が倒せば、呪いは解けるんですか?」
「おそらくそうよ。」
「レイ師匠もノア師匠も同じ考えで?」
「きっとね。」
ああ、協力したくねえ。
俺が修行で得た力を使って、いつか復活するとされる魔族の王を倒した場合、その力を授けてくれた師匠達は自死するかもしれない。それじゃあ寝覚めが悪すぎる。
人間不信ではあるものの、長年寝食を共にした師匠達に情が無いわけじゃない。ぶっちゃけ死んでほしくない。
そういえば、俺の身の上話を聞いたレイ師匠は号泣していたっけ。ノア師匠は黙って抱きしめてくれたし、セイラ師匠も何も言わずに寄り添ってくれた。
修行さえ無ければ、いつまでも一緒にいたい人達ではあるのだ。
返す言葉もなく、ただ黙っていると、セイラ師匠が「でもね。」と話を続ける。
「貴方と一緒なら、私達は生きていけるわ」
そう言って、セイラ師匠は俺の額に口付けをする。
「おやすみなさい」
「は、はい・・・おやすみなさい・・・」
結局その日はあまり眠れなかった。
次の日になって目が覚めると体が縮んでいた。オイ嘘だろまさか
「おはよう士朗。やっぱりその姿はカワイイわね。」
声のする方へ振り向くと、セイラ師匠が慈愛の瞳で見つめてくる。しかし待てよ、そんな目で見ても俺を縮めたのはアンタだろ。
「今日から第二段階。鍛え直しよ。」
セイラ師匠は微笑むが、俺は引き攣った笑いしか出てこない。寝起きでこんな悪夢があって良いのか?
「かんべんしてくれよ・・・」
先は長い。
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