第3話 師匠

「あたしの弟子にならないか?」


「へ?」


予想の斜め上の誘いに思考が停止する。


「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなりそんなことを言われても困る」


「何故だ?あたしの弟子になれるんだぞ?」


何故喜ばないのか不思議といった表情でこちらを見てくる。


「今ならなんと三食飯つき、更にこの家に住み込みで修行可能!

更にさらに……なんってたってこのあたし、大魔法士のネオ様に鍛錬してもらえるんだぞ!?こんなに良い条件そうそう無いだろ」


「だい、まほうし…?」


「おいおい、まさかあたしのこと何も知らないのか?

あの四賢者の一人、大魔法士のネオだぞ!?」


「四賢者…?」


さっきまでふんぞりかえっていたネオの顔は徐々に曇っていく。

そして肩を落とし、ため息を吐く。


「はぁ…まさかあたしのことを知らない奴がこの世界にいるとは。

少し、いやかなりショックだ…」


「…なんかごめん」


あまりの肩の落としように申し訳なくなる。


「つまり、ネオはすごい奴ってこと?」


「すごいなんてもんじゃない!

この世界に魔法の技術であたしの右に出るものはいない。

つまり最強の魔法士ってこと!」


「な、なるほど」


「それで、返事は?」


「丁重にお断りさせていただきます」


「うんうん、やっぱりあたしの弟子に…ってどうして?!」


「四賢者の一人ってことは、俺が弟子にならなくても志願してくる人は沢山いるでしょ。俺修行とかそういうの無理だし」


「くっ…確かに今まで弟子になりたいってここに来た奴はいた。

だが皆何故か辞めていくんだ。全く骨のない奴らよ」


「えぇ…余計俺には無理そう。痛いのも怖いのも、忍耐力必要なのも俺向いてないし。常に三日坊主だし」


「だぁー君もしかしなくてもめちゃくちゃ面倒くさがりだな」


「いやいやそれほどでも。弟子にはなれないけど、飯をくれたことには感謝してる。ありがとう。いつかお礼に来るよ。じゃ」


「ちょちょちょ、待ってくれよ。なぁ、頼むよ、弟子になっておくれよぉ」


出て行こうとしたらがっしりと体にしがみつかれた。

重い。


「もう、わかったから離れて…重い。……で、なんでそんなに弟子を欲しがるの?」


「詳しいことは今は話せないけど、とにかく時間がないんだ…」


真剣な表情で言うネオに揺らぐ。

どうやらネオの方も訳ありらしい。


「…修行ってどんなことをやるの?」


「!!!!!」


「でもまだ弟子になるわけじゃない。あれだ、弟子(仮)だ」


「うんうんうん、それでもいい」


両手を握りぶんぶん振られる。


「それなら…よろしくお願いします。師匠」


師匠という言葉に反応してネオの顔が綻んでいる。

るんるんで鍋からミルク煮を皿に盛りパクパクと食べ出した。


仮で弟子になるといっただけでこんなにも喜んでもらえるなら、ちょっと弟子になる位良いかと思った。




が、思ったのも束の間。




俺は猛烈に後悔している。

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もうなんだっていい カミトロニア @sake_no_5

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