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下層域の出であることが、少なからず足枷となる場所だからだ。
しかし、慈々自身がそれを望むのなら話は別だ。
寮での生活が嫌だとか、
「そこまでしてやる必要が? お前の気遣いは、行き過ぎていると思わぬでもない」
「才能があります」
果朶は、端的に断言した。
「汽界の精度が非常に高い。彼は、俺の手を構成する游子のつくりを労せずして見定めました。伸ばせるところまで伸ばしてやりたい。実は俺がここにいるのも、三類の
思案顔で説明を聞いていた夜行は、果朶の最後の一言に胸を塞がれたような顔をした。
「違うんです、そんな顔をしないでください。俺は十分、満足していますから」
掛け値なしの本心だった。
学院予科に通っていた頃、果朶の身には活力が漲って、どこまでも羽ばたいていける気がしていた。ひたひたと満ちた知識が、自信になった。
あの頃と比べれば、気力も気迫も、穏やかになっているかも知れない。
それでも果朶は、ひどく息がしやすかった。
これほどに安らかな心持ちで、禁苑に再び立って学院予科を目にする日があろうとは、思ってもみなかったのだ。
安心させたい一心で笑んだ果朶に、夜行は驚いたように目を見張った。
「お前は、──……」
言葉が続かなかったのは、夜行の背後に延びる小径を、一人の男が駆けてきたせいだ。
彼の慌ただしい
「──申し上げます!
娥家の従僕かなにかだろうか。
息を切らして夜行に告げたその男は、張り詰めた顔をしていた。首筋を大粒の汗が伝っている。
夜行は眉をはね上げた。
「向かおう。……果朶。また、すぐに会いに来なさい。しばらくは娥家から離れられないかも知れないが、私に用があるのだと言えばいい。お前の元気な顔を見ることができて、本当に良かった」
口早に言い置くと、夜行はくるりと踵を返した。紺の
彼らの影は、煙のように薄くなって、禁苑に延びていた。
杏家当主、
◇
それはあまりに突然だった。
錘宮の地下室に下りてきた
「これから錘主がいらせられます。飛行技術開発の進捗について、説明をお求めです」
騒然となったのは
うずたかく積まれた資料や、図表が貼られた樹皮板の間で手にした
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