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「その……
品格ある振舞いをし、無様な姿を先生の目に入れぬようにと努める。
先生は手を止めると、どこか遠くを見る目をした。
「ああ、確かに。私も昔は、黒く染めていたものだ。人は、己と違うものを排除したがる。白いままでは、なにかと不都合があるからね──」
染めたことがあったとは、意外だった。
ゆるくうねって腰まで伸びる夜行の髪は、果朶が初めて会った時から雪のような
幼い頃、熱病にかかって以来、色素が抜けた状態で生えるようになったのだと聞いていた。
「先生は……お元気でしたか」
尋ねた果朶に、夜行は鮮やかに微笑んだ。
色香をまとった
果朶が
彼女たちは熱心に夜行を慕い、中には、崇拝に近い感情を注いでいる者もいた。
夜行はあくまでも、彼女たちを対等に扱った。
たった一人の恋人になりたいと迫ってくる者がいれば、鷹揚にそれをいなした。
帰りたくないと駄々を捏ねる女には、節度のほどを教え諭した。
お陰で、唯一夜行の懐に入り込んだ格好になった果朶は、彼女たちの負の感情をまともに浴びることになった。
子どもにとってよくないからと、夜行が彼女たちを遠ざけたこともある。
夜行が居ぬ間にやって来た愛人たちは、果朶を罵り、頬を張った。
幼い肌に散ったあざを訝しんだ先生は、事情を知るとすぐさま家を引き払い、上層域に引っ越した。
新たな邸には、留守を管理する使用人を置きさえした。
「私はなんら変わりない。お前こそ、どうなのだ? 五年間も顔を見せずに。ああ、随分と成長した。逞しくなって……声を聞かねば、気付けないほどだった」
先生は感慨深げに果朶を見つめ、深々と息を吐いた。
それはまるで、実の子どもと相対しているかのような態度だった。
果朶の胸のあたりが苦しくなった。
「すみません。その……先生に合わせる顔がなかったので。会いに行くなら、せめて学費をお返しした後にしよう、と」
夜行は目を見開くと、すぐさま首を横に振った。
「なにを言う。学費など、気にせずともいいものを。稼いだ金は自分のために使いなさい。お前が寄越した小切手は、そのままそっくり取ってある。今度、持って行きなさい」
果朶は思わず、天を仰いだ。
果朶が小切手を送らずとも、高名な先生は暮らし向きに困らないと知っている。
それでもまさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「……先生」
「生憎と、私は
そう言えば、夜行は六月ごろから娥家に住み込み、相談役を務めていると聞いていた。
痩躯の男のところの少年が、新たな住所を書いた紙を持ってきたことを覚えている。
ふと、あることを思い付いて果朶は首を横に振った。
「でしたらそのまま、持っておいていただけますか。もしかしたら、俺の知り合いが学院予科に入るかも知れないんです。その時には、学費を出してやりたくて」
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