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せめて、去り際くらいは美しくありたかった。
汽界を見ることができぬ者が、見えると偽り本科に進んでも仕方がない。
予科の教育を担っている
『申し訳ありません。恩を、仇で返すような真似を──……』
この一年間、先生だけが支えだった。
前例のない事態であるのに、果朶とともに予科を欺き、汽界が戻ることを信じて待っていてくれた。
医者のなけなしの助言に従い、緊張を緩めたり、気を鎮めたりする
そのすべてに、果朶は応えることができなかった。
美しく去りたいと思っていたのに、情けなくも、熱いものが頬を伝った。
自分は一体、なんなのだろう。
過去もない。才能もない。
ただの空虚な器だった。
師儒たちの協議の末に、その日の夕方、果朶の願いは受け入れられた。
──各人の配属先が、予科の教室に張り出される二月末。
果朶は、逃げるように荷物をまとめて学院を去った。
先生の邸に戻って、けれども先生に合わせる顔などあるはずもなく、布団の中でうずくまって身の振り方を考えた。
上層域には、居られなかった。
多くの者が、天才と褒めそやされた異邦の少年を知っている。彼らの視線がそこかしこにある場所で、生活できる気がしなかった。
それに、天才でもなんでもないただの自分が、夜行の傍をうろちょろするなど図々しい。
夜半過ぎに居室を訪れ、遠くに行きますと告げた養い子に、先生は長いこと沈黙していた。
なんの価値も持たぬ青年を、責めているのか憐れんでいるのか、果朶には推し量れなかった。
ややあって、夜行は言った。
『よく食べて、よく眠りなさい。身体を大事に過ごしなさい。どんな方法でも構わないから、時には元気でいることを報せなさい。どこに居ても、品格だけは保ちなさい。お前は、私が育てた子なのだから』
人格者である先生は、自分の期待をことごとく裏切った養い子に対してすら、寛大に振舞った。
果朶が最も打ちのめされたのは、下層域で
ある朝、何気なく空を見上げた。
予科と比べて随分遠いその青に、一日の天気を問おうとして無意識の内に虹彩に力を込めた。
なにも見えないことは知っていた。
ただ単純に癖が抜けず、ついつい
数多の遊子が、汽界いっぱいに広がった。
相も変わらず、美しい光景だった。
灰が積もるような溜息が出た。
自分は本当に、天才などではなかったのだと痛感した。
夜行が呼んだあの医者は、精神に掛けられた負荷が光を伝える管を狭くしているのかも知れない、と果朶に告げた。
学院を去ってから汽界を取り戻したという事実は、
『本っ当に、馬鹿みたいだよね。火が怖い
自嘲を込めてぼやいた果朶に、雨禾はなにも言わなかった。
ただ、果朶が
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