33
なんと声を掛けるべきか迷ったが、そうこうする内に年若い
「あー、その、えー……。
結局、なんとも締まりのない声掛けになってしまった。
やはり、氷の彫像のような顔をしていた。
少年期に誰もがまとう瑞々しさはほとんど抜け落ち、落ち着きに似たものが目元に備わっていたが、冷ややかさは健在だ。
彼は、慈々を伴って立っている果朶を認めると、手にした書類をばらばらと取り落とした。
「えっ」
果朶は咄嗟に驚いた。
冷静沈着、すべてにおいて完璧な不動の首席。
そんな彼が、人の顔を見た拍子に手を滑らせるなんて。
呆気に取られて黙っていると、或令はゆっくり瞬いた。
「……
掠れた声で尋ねられ、果朶はいささか意外に思った。
先ほど禁苑で行き合った師儒とは、予科生時代に親しく話した記憶もあった。
その彼が、果朶に気付かなかったのだ。或令はもっと分からないだろうと思っていたが、一瞬で見抜くとは。
やはり、不動の首席は記憶力も桁違いであるらしい。
「や、久しぶり。お元気そうでなにより。あんたの妹、急用できたみたいでさ。俺が代わりに、この子連れてきたってわけ」
気まずさを誤魔化して、慈々の背中に手を添えて或令の方に押し出すと、彼はまた瞬いた。
棒立ちになったまま動かない或令の代わりに、年若い師儒たちが床に散らばった書類をそそくさと拾って集める。
「この子、
そう説明した果朶ににっこりと笑ったのは、最初に二人に気が付いた師儒だった。
彼は、果朶に向かって会釈をすると、どこか
「えっと、鄍師儒のお知り合い? の方ですかね? 見学の方を連れて来てくださって、ありがとうございます! 僕は、鄍師儒の下で研究させてもらってる
「忙しいところ、恐縮なのだ。今日はよろしく頼むのだ」
畏まってお辞儀をした慈々を、巳園は、机の一画に連れて行った。
果朶は胸を撫で下ろした。
或令の様子がおかしいのでどうなることかと思ったが、部下がしっかりしていて助かった。
「それじゃあ後は任せるね。いつ頃迎えにくればいい?」
巳園に問うと、ここに至って或令がようやく口を開いた。
「……少し、話でもしていけ」
果朶の顎がかくりと落ちた。
一体、なんの天変地異の前触れだろう。
一日に二度も或令の声を聞いたどころか、歓談にまで誘われてしまった。
年月を経て饒舌になったのかと思ったが、信じ難いことを聞いたと言わんばかりに口をあんぐり開けているのは、巳園たちも同様だった。
若い師儒たちに背を向けて、果朶は、研究室の窓に歩み寄った。
「はぁ、珍しいこと言うね。でも、そう言ってくれてちょうど良かった。俺もあんたに話があった」
実りを間近に控えた大地の、その香りをまとった風が室内に吹き込んで、穏やかに頬を撫でる。眼下には、学院予科の建物が臨めた。
或令の瞳が微かに揺れた。
「……なんだ」
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