25
いいよねぇ一類は暇だから! と、地下室にいる
周辺の師儒たちはとっくに慣れっこになっていると見えて、『二類のやつらも、お前が居なくなってせいせいしてるだろうさ』と、野次を飛ばす。
『あはは、そうかも知れないねぇ! だからさ! 空を飛べる日がきたら、僕、とんでもなくありがたいわけ。標高が高い場所も、調べられるようになるし! 分かってくれる、この高揚を? もうね、考えただけで身震いするよ!』
そう言って、彼は実際大きく肩を震わせると、呆気に取られる
『ああ、もう。
慌てた
忘我は意識を失ってしまったわけではなく、几園が軽食を取りに走っていくのを引き留めるために起き上がり、僕はとっても元気だよ! と主張していたが、馬鹿なことを言うなと
──じりじりと焼けつく陽射しと、ゆらゆら揺れる陽炎に包まれて。
◇
よく乾かされた
果朶の頭を撫でてくれた大きな手も、その拍子に肩に触れた袖口も、同じ香りを漂わせていた。
『噂には聞いているよ。期末の実技試験では、実に素晴らしい成績を収めたというではないか。私はお前が誇らしい。これからも励み続けなさい』
窓の外から、羽ばたく音が聞こえてくる。一羽の鳥が硝子を横切る。床の板にも、同じ形の影が落ちる。
『同僚たちも、お前のことを褒めていた。異邦の天才と称されるのも納得だ、発想の柔軟性が素晴らしい。あの優秀な予科生には、是非とも三類に来て欲しい、とも』
翼の先端が曲線的で、羽と羽の間には隙間があるのが見てとれた。あれは
いずれにせよ、ゆっくり飛ぶのが得意な鳥だ。
『このまま努力を欠かさなければ、二年後の卒試でも、十分希望が通るだろう。なにも案じることはない。一つ欲を言うのなら、お前が一位になるところを、それまでに見たいものだ』
お前の才に最初に気付き、育て上げたのは私自身だ。首席になるだけの素養はあると知っている、そう請け合った先生の、才智に溢れたその眼差し。
彫が深くて引き締まった横顔を、かく在りたいと胸高鳴らせて見上げながら頷いた、かつての自分は
「果朶、果朶。起きるのだ」
「起きるのだ。もうそろそろ、準備を始める時間なのだ」
不意に肩を揺す振られ、果朶は瞼を持ち上げた。
眩しい光が飛び込んできた。目の前に、同じ型で作ったような、よく似た二つの顔がある。
懐かしい夢を見ていたのだと気が付いて、呻くような声が漏れた。
「……ああ。もう、そんな時間? ……
「ついさっき、
教えてくれた
〈
『八月二十三日──学院の
ひらりひらりと、銀色の
綺羅晶掘りたちの組合〈
花火玉は、
「気負い過ぎて、いたのかも」
果朶はぽつりと呟いた。
異邦の天才だともてはやされて、優秀であることが当たり前になってから。
将来が楽しみだ、きっと素晴らしい師儒になるだろうと、言われる度に。
欠片をぴたりと組み合わせ、一枚の絵を描き上げた時の喜びは、徐々に
最近になって、その膜が、ようやく剥がれて落ちていった。
「そんじゃ俺たち、先に倉庫に行ってるから」
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