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第三書庫は、
そもそも古書のほとんどは、既に写本が作られており、あえて入室を希望する者は少なかった。
錘主と彗翅は、過去の錘主が建設後に放棄した地下室を動力開発の場として用いることを決めてから、第三書庫と地下室を繋ぐ階段を速やかに築かせたという。
飛行技術の開発に携わっている
『長年にわたって学院にいる師儒は、賢裔三家との関わりが、やはり強くなってしまうので。特に、二類にいる師儒たちは、若い内から貴族たちとの接点が生まれやすいようなのです』
彗翅の説明に、そうだろうなと果朶も思った。
賢裔三家は、将来は二類に行くだろうと言われている成績のよい予科生のことさえ、注視しているふしがある。
三類を志望していた果朶は、ごく自然と、動力開発の中心的な存在になっていった。
師儒たちは、細かい作業に疲れた時や、気分転換をしたい時に、飛行技術の開発に関わることになった経緯について、ぽつぽつと話すことがあった。
『俺は、本科に入って間もなくして、一類のつま弾きものになったからな』
普段の
『お前も聞いたら、軽蔑するかも知れない。俺は、師儒たちの遺体を、解剖したいと言ったんだ』
果朶は
軽蔑というよりも、冷たい肌を刃物が裂いていく光景を想像して、皮膚がぞわりと泡立った。
『えっ、なんで』
遺体は、立場ある者ならば
魚や動物とは違うのだから、解剖する理由もないはずだった。
『
果朶は、すぐさま冷静になった。
伯烏は元々、一類に行きたいと考えながら予科生時代を過ごし、そして希望を叶えたのだという。彼の仮説は、興味深いものだった。
『それはつまり、生まれつきの身体のつくりで、汽界を臨めるかどうか決まるって話?』
『生まれつきかは、分からないが。しかし汽界を見る者は、成長期が訪れる前に、そのことを自覚する。少なくともそれ以前に、目の構造が決定されるとみていいだろう』
ふうんと果朶は頷いた。
伯烏は、自身の瞳を指さした。
『俺たちは焦点を汽界に置く時、虹彩に力を込めている。その際に動く筋肉が、一枚目の膜を引き上げて、二枚目の膜を表に出す。この二枚目の膜が、あらゆる物質を游子として見せている。それを確認したかったが、遺体に対する冒涜だと、白い目を向けられた』
むやみに遺体をあばこうとしたわけではない。
伯烏は、淡々と説明する。行うのなら、研究のためだと生前に許可を取り、十分に敬意を払ってするつもりだった、と。
『だが、今になって思い返せば、受け入れられないのも無理もない。権威ある高齢の師儒たちから、危険な考えだと見なされて、あらゆる研究から外された』
存在しない影のように扱われていた折に。
彗翅に、声を掛けられた。
動力の開発は、専門外の分野だった。けれども、このまま無為に日々を過ごすより、遥かにましだと感じられた。
また別の師儒は、飛行技術が開発されれば自分の研究の幅が広がると考え、参加を決めたのだと語った。
彼は、素面であるにも拘わらず、酔っているような話し方をした。
『あはは、僕はねぇ! 天涯山の植生を、とことん調べ尽くしたいんだよ!』
鳥の巣状のぼさぼさ頭の、見るからに個性的なその師儒は、当初は二類に配属されたが自ら望んで一類に移ったという。
『君、ご存知? 天涯山にも、実は、
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