20
「
游子の構造を晶汽で再現することを〈編み出す〉という。
晶汽を編み出そうとする者は、たとえば、風を構成している游子のつくりを、細部まで観察する必要があった。核となっている游子や、周辺を飛び交っている游子がどれか、見定めるのだ。
そしてそれらの一つ一つに対して、
すなわち、他の游子を引き寄せることで構造を成立させているのか、他の游子に引き寄せられることで構造を成立させているのか、見分けていく。
晶汽を編むのは、その後だ。
晶汽が、風を構成する游子のつくりと等しいやり方で編まれた時、そこが閉ざされた空間であっても、『風』という運動が発生する。
慣れてくれば、ただ見たままを再現するだけに留まらず、目的に合わせて自分なりの調整を加えることもできた。
勢いよく落下する水のつくりを裏返せば、乗り物を上昇させる力強い動力となり、役に立つかも知れない。そう、
果朶は微妙な気分になった。
それは果たして、適当な発想と言えるのだろうか。
指摘するか迷ったが、伯烏たちが、果朶の言い分を理にかなっていると捉えるなら、この研究にとっては益となる。仮にそうではないにしろ、彗翅たちに断る時の格好の材料となるはずだった。
どちらに転んでも悪くない。果朶は、結局口を開いた。
「あのさ、あんたたち。天涯山の風って見てる?」
問い掛けの意図するところが分からない、そんな眼差しで果朶を見た。
「……風、ですか」
果朶は、首を縦に振った。
人差し指を、真っ直ぐ立てる。天空を指し示した。
「そう。風。天涯山の稜線付近は、強い風が吹いている。
予科生たちは、一通りの力学を習得している。
編み出した動力を道具などに組み込む際、その効果が、最大限に発揮される条件を心得ておく必要があるからだ。
答えを告げるというよりも、自分の考えを確認するかのような口振りで、
「天涯山を吹く風と、乗り物を動かしている動力が……互いに激しくせめぎ合って、……もしかして。動力を乗せている乗り物自体が、大破する……?」
肩をすくめて、果朶は頷く。
要するに、全力で走っている人間同士が衝突したら、転んで怪我をしてしまうのと同じ原理だ。
「うん。だから、天涯山を越えるなら、もっと柔軟性があるものを動力にした方がいいと思う。しなやかさがないと、あの強風には耐えられないし」
果朶が説明し終えても、四汪たちは、顔を見合わせるばかりだった。三人の中では最も社交的に見えた
これは一体、どういう種類の沈黙なのかと、果朶は判断に苦しんだ。
ややあって。
「……なるほどな」
淡々とした口振りで、溜息交じりに果朶を見下ろす。
「お前は一つ、重大な思い違いをしている。──俺たちの汽界では、そのように遠くまでを見通すことなど、逆立ちしたってできやしない」
せいぜいが、禁苑を吹く風の游子を観察するのがいいところだ。そう付け足した伯烏の肩を押しのけて、身を乗り出したのは
「すごいや、果朶さん! どうやったらそんなに遠くまで見えるの? ていうか発想が天才だったよ! 上空の状況から逆算して、動力を考えるなんて」
僕たちにはない視点だよ、と頬を染めてまくしたてる。
果朶はかえって、居心地が悪くなった。
几園は感銘を受けているが、果朶は特段、革新的な発言をしていない。汽界であれば
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