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一類いちるいの連中は、晶汽しょうきの編み出しが苦手なやつらばっかりだ。俺たちの中だと、四汪しおうが一番まともにできる。今は、丙垂へいすいの滝が落下する際の游子ゆうしを模して、それを反転させたものを、飛行の動力にできないか試している」


 游子の構造を晶汽で再現することを〈編み出す〉という。


 晶汽を編み出そうとする者は、たとえば、風を構成している游子のつくりを、細部まで観察する必要があった。核となっている游子や、周辺を飛び交っている游子がどれか、見定めるのだ。


 そしてそれらの一つ一つに対して、いんの性質を持っているのか、ようの性質を持っているのか、あるいはそのどちらでもないのか、判断を下していく。

 すなわち、他の游子を引き寄せることで構造を成立させているのか、他の游子に引き寄せられることで構造を成立させているのか、見分けていく。


 晶汽を編むのは、その後だ。


 晶汽が、風を構成する游子のつくりと等しいやり方で編まれた時、そこが閉ざされた空間であっても、『風』という運動が発生する。


 慣れてくれば、ただ見たままを再現するだけに留まらず、目的に合わせて自分なりの調整を加えることもできた。


 丙垂へいすいの滝は、天涯山の絶壁から滴り落ちる急な滝だ。

 勢いよく落下する水のつくりを裏返せば、乗り物を上昇させる力強い動力となり、役に立つかも知れない。そう、伯烏はくうたちは考えたのだろうが、──しかし。


 果朶は微妙な気分になった。


 それは果たして、適当な発想と言えるのだろうか。


 指摘するか迷ったが、伯烏たちが、果朶の言い分を理にかなっていると捉えるなら、この研究にとっては益となる。仮にそうではないにしろ、彗翅たちに断る時の格好の材料となるはずだった。

 どちらに転んでも悪くない。果朶は、結局口を開いた。

「あのさ、あんたたち。天涯山の風って見てる?」


 四汪しおうがぴたりと手を止めた。

 問い掛けの意図するところが分からない、そんな眼差しで果朶を見た。


「……風、ですか」


 果朶は、首を縦に振った。

 人差し指を、真っ直ぐ立てる。天空を指し示した。


「そう。風。天涯山の稜線付近は、強い風が吹いている。春夏秋冬しゅんかしゅうとう朝昼晩あさひるばん。それがどんな瞬間であれ、汽界を見れば、大気中の游子たちが激しく動いてるのが分かるはず。そんな場所に、丙垂の滝を反転させた勢いのある動力をぶつけたら、どうなると思ってる?」


 予科生たちは、一通りの力学を習得している。

 編み出した動力を道具などに組み込む際、その効果が、最大限に発揮される条件を心得ておく必要があるからだ。


 答えを告げるというよりも、自分の考えを確認するかのような口振りで、四汪しおうが上目遣いで果朶を見上げる。

「天涯山を吹く風と、乗り物を動かしている動力が……互いに激しくせめぎ合って、……もしかして。動力を乗せている乗り物自体が、大破する……?」


 肩をすくめて、果朶は頷く。

 要するに、全力で走っている人間同士が衝突したら、転んで怪我をしてしまうのと同じ原理だ。


「うん。だから、天涯山を越えるなら、もっと柔軟性があるものを動力にした方がいいと思う。しなやかさがないと、あの強風には耐えられないし」


 果朶が説明し終えても、四汪たちは、顔を見合わせるばかりだった。三人の中では最も社交的に見えた几園きえんまでもが、神妙な面持ちをして黙っている。

 これは一体、どういう種類の沈黙なのかと、果朶は判断に苦しんだ。


 ややあって。


「……なるほどな」


 伯烏はくうが、ようやく声を発した。


 淡々とした口振りで、溜息交じりに果朶を見下ろす。

「お前は一つ、重大な思い違いをしている。──俺たちの汽界では、そのように遠くまでを見通すことなど、逆立ちしたってできやしない」


 せいぜいが、禁苑を吹く風の游子を観察するのがいいところだ。そう付け足した伯烏の肩を押しのけて、身を乗り出したのは几園きえんだった。


「すごいや、果朶さん! どうやったらそんなに遠くまで見えるの? ていうか発想が天才だったよ! 上空の状況から逆算して、動力を考えるなんて」

 僕たちにはない視点だよ、と頬を染めてまくしたてる。


 果朶はかえって、居心地が悪くなった。

 几園は感銘を受けているが、果朶は特段、革新的な発言をしていない。汽界であれば雨禾うかの方が高精度だし、ここにいたのが夜行やこうであれば、より説得力のある言い回しで同様の指摘をしていただろう。

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