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「残った晶汽しょうきから、陰陽晶いんようしょうだけを選り分けているんだ。特定の光を模した晶汽を照射すると、陰晶いんしょうは青く染まり、陽晶ようしょうは灰色に染まる。それを、手作業で取り除く。磁石による大まかな仕分けが済んだ後だからこそ、可能である芸当とも言える」


 集中しているのか、几園きえんは顔を上げもしない。


 果朶かだは言葉を失った。


 当たり前のように伯烏はくうは言うが、果朶はそもそも、陰晶と陽晶だけが着色されて見える光があることを、初めて知った。


「なにそれ。そんな話、初耳なんだけど」

「そうだろうな。二年ほど前、一類いちるいが発見した事実を元に確立された、新しい手法だ。お前が予科生だった頃は、学びようもなかっただろう」


 伯烏からの説明を聞いて、果朶は、そうだったんだ、と噛み締めるようにして呟いた。几園の肩越しに、拡大鏡を覗き込む。


 乳白色をした晶汽の内、いくつかが、青や灰色に染まっていた。硝燈らんぷからの光を浴びて、己の存在を主張している。それらが、取り残された陰陽晶、ということだろう。


 ……ふと。


 疎外感が込み上げた。

 自分はきっと、ここにいるべきではない人間だ、と思った。


 ──五年間。


 五年間、果朶は学院から遠ざかっていた。

 それは、研究に携わる者にとっては、長すぎる年月だ。


 五年もあれば、最新だった研究結果は『古い見識』に姿を変える。

 未知だった事柄が次々に判明し、それまでの『当たり前』は上塗りされて、新たな『当たり前』が周知される。


 そんな流れが、一体いくつ興っただろう。果朶は、とっくに乗り遅れている。


「どうしたの? 果朶さん。体調悪い?」

 俯いた果朶に、声を掛けたのは几園だった。

 彼はとっくに仕分けを終えて、人の良さそうな双眸で、果朶の顔を覗き込んでいる。


「ん、大丈夫。なんでもない」

「そう? 無理はしないでね! ここ、地下だから。長くいると、気分が悪くなりやすいと思うし」


 果朶は黙って微笑んだ。

 断ろう、と思った。見学が終わったら、彗翅すいしと錘主に、自分では力になれません、と言おう。やはりここに、果朶の出る幕はない。


「最近は、おもとなる動力の研究に力を注いでいる。前までの模型は、お前の指摘を踏まえた結果、お蔵入りになったからな。動力が作られてから、もう一度改めて、設計図を考えた方がいいだろうということになった」


 果朶の内心を知らない伯烏は、淡々と説明を続けている。


 伯烏の視線の先には、四汪しおうがいた。

 姿勢正しく作業机の前に座した四汪は、漆喰の小箱に向かって、ありに餌でも遣るように手を動かしているところだった。

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