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それをどう捉えたのか、
「自力飛行に成功したのは、今のところ
「いや、無理でしょこの設計」
果朶は思わず呟いた。
呆れのあまり、自分の口が動いていることにさえ気付かなかった。
「こんなんで空を飛べるって、本当に思ってる? だいたい、
果朶ははたと言葉を切った。
自分が喋っていることに、ようやく気が付いた。
──やらかした。
顔をひきつらせて彗翅の様子を窺えば、呆気に取られて果朶を見ている。
「や、違う、なんでもない。なんでもないっていうか、俺はなにも言ってないっていうか。ちょっと一旦忘れてくれる? だいたい設計図って大事なものでしょ。部外者にほいほい見せて大丈夫なの?」
言い訳を、考えてみなかったわけではない。けれども動揺が強すぎて、思考はすべて上滑りした。
果朶が慌てて突き返した設計図を、彗翅もまた狼狽しながら受け取った。
「え、いや、部外者というか。果朶さまは、協力者の側でしょう?
「どこが順調!? ……いや、えっと」
果朶は黙った。
これ以上余計なことを言う前に、この場を逃げ出すのが最適解だ、と思った。
「じゃあ、俺は帰るから。いい加減、もう眠いし?
「あ、はい。分かりました、お気を付けて。……って、そんな簡単にお帰しするわけないでしょう!?」
そそくさと立ち上がった果朶の前を、通せんぼをする格好で彗翅が塞ぐ。半端な言い逃れは許さないと言わんばかりに、果朶をじっと見つめてくる。
元々がぱっちりとした瞳なだけに、迫力があった。
「一体、どういうことですか? もしかして果朶さまは、動力の開発や音信蝶に造詣が深いのですか。お願いですから、教えてください。私たちは、生半可な覚悟で飛行技術の開発に臨んでいません。どんなに些細な知恵であっても必要なのです!」
果朶は深々と嘆息した。
彗翅に覚悟があることは知っている。それに、先ほどの発言は、流石に誤魔化せる範疇を越えていた。
ここでしらを切り通しても、一等書記官である彗翅にとっては、果朶の素性を調べ上げることくらい容易だろう。
「造詣が深いっていうか。……遥か昔に、学院にいたことがあるだけだよ。本科じゃなくて予科だけど。予科課程の修了後は、三類志望だった」
ぼそぼそと身の上を白状した後、果朶は急いで弁明の文句を付け足した。
驚きで丸くなった彗翅の目に、非難の色が過ぎったら嫌だと思ったのだ。
「ただ、言わなかったのに他意はないよ。飛行技術の開発には、錘主の伝手で集まった
今の果朶は、もう天才でもなんでもない。挫折に耐えられず学院を去った負け犬だ。
果朶を初めて目にする者に、『彼があの、異邦から来た天才か』と言わしめてきた金の髪を染めた時から、優秀だった日々は忘れて大人しく生きていこうと決めたのだ。
彗翅は微妙な顔になった。
「その……錘主だから優秀な人材を集められるとは限らないんです。むしろ、逆というか。有能な師儒ほど、
「え?」
驚いた果朶だったが、考えてみれば、確かにその通りなのだった。
賢裔三家は、禁苑の管理を請け負っている。
穀物の生育や、収穫量に気を配る必要があるので、品種改良や肥料開発を専門とする本科二類とは蜜月の仲だった。三類も、耕作機具などの開発を通して浅くない関係を築いている。
ひょっとして、否、ひょっとしなくても。
錘主が集められる師儒というのは、どこからも注目されていない『あまりもの』ではなかろうか。
「ですから、汽界を見ることができて、なおかつ游子や晶汽の知識を持った人材は、一人でも多く欲しいのです。そのような経歴をお持ちなら、是非とも錘宮にいらしてください!」
彗翅の言葉を理解しかねて、果朶は咄嗟に呟いた。
「……錘宮に」
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