19
「食糧だって、同じです。学院の
茶葉や砂糖は、月末から価格が上がると。
「もっとも、切迫した食糧難が起こるのは、もう五十年ほど先でしょう。そうなる前に、外の世界に繋ぎを付けておきたいのです。空を飛んだら、異邦に行ける。
今の内に可能性を広げておく必要があるのだと、そう説明した
「だったら、学院を頼ればよくない? なんで、内密にって話になるわけ。
はた、と果朶は口をつぐんだ。
それは悪手だ。
彗翅は、困り顔で首を傾げた。
「
要するに彼らにとっては、
「それであんたとあんたの主人は、学院と貴族の目を避けてるってわけね。試みが露見したら、横槍を入れられかねないから」、
ようやく得心がいった果朶に、彗翅は我が意を得たりと頷いた。
「ええ、まさにおっしゃる通りです。私の主人は、この国の行く先を案じている師儒たちを個人的な伝手で集めて、飛行技術の開発を開始しました。ですが、
晶汽。
それは、動力を作るなら、欠かせないものだった。
「どうにかして、手に入れる必要がありました。常々申しているように、少量でも構いません。目下のところ、動力の試作に
果朶は、深々と
ふと、思った。この話題に関することで、自分が説得される側にまわる日がくるなんて。
「あんたの主人って誰。ていうかそもそも、あんた自身は大丈夫なの?
「私の主人は今代の
果朶はついと目を細めた。国の頂点、錘主が自ら主導しているとは。
「へぇ。あんたって天才だし、小さい頃から鄍家で英才教育でも受けたのかと思ってた」
あけすけに言った果朶に、彗翅は、懐かしむかのように首を振る。
「まさか。きっと、最初の先生が良かったんでしょうね。教え方がとても上手で。それで、学ぶことが大好きになりました」
果朶はふうんと呟いた。
その感覚は、果朶にも覚えがあるものだった。
知らないものを知っていく。それは、
游子のことを知る度に、晶汽の組み方を知る度に、四肢に力が漲って、空白が埋められていく心地がした。積み重なった知識たちが自分を空に導くと、希望とともに信じていた。
浮かべた笑みが、どうも締まりのないものとなったのは、時の流れが身に染みたから。
「まあ、いいよ。俺で良ければ協力するよ。この国の未来がかかってるなら、悠長なこと言ってらんないし?」
かつての夢に、綺羅晶を提供するという形であっても、関われるのは悪くない。
彗翅の口元が、とろけるように綻ぶ。
それを果朶は、どこか不思議な心持ちで眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます