第二章 天才の出戻り
1
万年二位の、異邦の天才。
それが、
学院は、錘の国の上層域、禁苑にほど近い場所にある。
地歴二十八年に、三賢の一人である
学院への所属が叶うのは、
性別、身分、年齢は問われない。
汽界を見るには、虹彩にのみ圧力を加える必要があった。
数百人に一人ほどの割合で。遺伝などに関係なく、それができる者が現れる。学院の
六年にわたる予科課程で、入学した者たちは、基礎的な知識を学んだ。予科課程が修了すると、本科に進んで、師儒と呼ばれる研究職に就く。
本科は、三つに分かれている。
游子や汽界、あるいは汽界を見ることができる人間そのものについて研究し、未だ明らかにされていない原理法則について調べる一
土や植物を構成している游子について研究し、
そして、晶汽によって游子の動きを模倣して、作り出した動力で生活の向上を図る三類である。
果朶は、十三歳で入学した。
悪くはない日々だった、と思う。
綽名が示している通り、一位にはなれなかった。けれども、十分に上位だった。
白い肌や金の髪を気味悪げに眺めてくる予科生も多かったが、興味津々に話しかけてくる予科生もいた。
天涯山で果朶を見付けた本科の師儒は、
それでも、游子や晶汽について学ぶことは楽しかった。空を飛びたいという大望を抱いていたから、予科課程の修了後は先生と同じ三類に進もうと思っていた。
十八歳に、なるまでは。
◇
「無理ってもんがあるだろうが」
凜がぶつくさぼやいている。
悪人然とした顔を歪めて、はみ出した
「夜勤明けだぜ、こっちは。細かい作業ができるほど、集中力残ってねぇよ。そこの双子、起きやがれ。今日はあと五十個作らないといけないんだ」
よくまわる口だな、と果朶は思った。
顔のすべての筋肉が眠りたがっている今の果朶には、真似できない芸当だ。
「うるさいのだ、凜。そんなことを言われても、眠いものは眠いのだ」
「だいたい、僕たちは双子ではないかも知れないのだ。適当な発言はやめるのだ」
うつらうつらと揺れていた
『八月一日──……学院の気象望によりますと、天気は晴れ。賢裔三家の筆頭、
〈望淵〉の開け放たれた窓の向こうを、音信蝶が飛んでいった。
時刻は八時。午後ではない。午前の八時だ。
夜勤明けの果朶たちは、寝不足の顔を突き合わせて、華灯づくりの最中だった。机の上には、白色の薄紙や定規、鋏などが散らばっている。
八月半ばに行われる、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます