10
「まあ、でも、……有り得ないってわけでもないのか」
少なくともあの子、
「そいつぁ本当ですかい、
いつの間に席をたって来たのだろう。緋色の
ごてごてと
「丁度いいとこにお出でなすった。ここは一つ手っ取り早く、わたくしの代わりに客人の話を聞いてやってくれませんかい? 流石に手に負えませんや」
この組合で、厭朱だけは
学院は
果朶はとりあえず逃げを打った。
「そうは言うけど、厭朱。あの子、組合主と会いたいって言ったんでしょ? 俺が行っても役不足だと思うけど」
「ご心配なく、わたくしも立ち会うんでね。だいだいそこのそっくりさんたち、ずっと覗き見してたでしょう? 兄貴分として、
穏やかな物言いだが、果朶の顔に掛かる近さでふーっと紫煙を吐き出した厭朱には、有無を言わせぬ圧がある。
果朶は深々と嘆息した。
仕方がない。
ええいままよと応接室に踏み込むと、
「……え?」
果朶はしばし、彼女のことを観察してみた。
先ほどは気にも留めなかったが、こうして見ると、確かに質のいいものを身に付けていると分かる。
少女が呆けているのを見て取って、果朶は幾ばくか不憫になった。自分のように心ない人間とは、二度と会いたくなかったろうに。
けれどもそれは杞憂だった。
彼女は即座に立ち上がって、花が咲いたような笑みを浮かべた。
「ああ、嬉しい! もう一度お会いしたかったんです。実は、ちょっと期待してました。この組合に、あなたがいるんじゃないかって! 朝なのにお仕事帰りみたいだったし、
果朶が絶句していると、少女の表情がふと曇る。そして、しおらしく俯いた。
「はしゃぎ過ぎてしまいました。まずは謝らないといけません。今朝はいきなり求婚して、ご迷惑をおかけしました。気持ち悪いと思われるのも無理はないです。反省していますから、どうか許してくれませんか?」
碌に息もつかぬほどの早口で言い切ると、果朶の顔をじっと見る。
その迫力に流されて、果朶は、考えるより先に首を縦に振ってしまった。
少女は顔を輝かせた。
買った
「ありがとうございます! それにしても、見れば見るほど綺麗なお顔……。睫毛が
頬をほんのり赤く染め、きゃあきゃあ悶え始める始末である。
果朶の心にそれまであった、彼女に対する罪悪感や憐憫が、綺麗さっぱり消えていくのが自分でも分かった。
代わりに、危機感と確信がひたひたと湧いてくる。
この少女、想定よりもとんでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます