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とりあえず。
実のところ、初対面の女性からこのような台詞を言われるのは、果朶にとって珍しいことではない。
流石に求婚は初めてだが、待ち伏せされて交際を迫られたり、お友達からでも良いから仲良くなりたいとつきまとわれたりしたことなら、数えるのさえ億劫になるほどだった。
なにせ、
猫の
色素の薄い肌と言い、灰色がかった瞳と言い、むしろ彼は、緻密に作られた
「はあ。なに、下らないこと言ってんの」
彼女の細い腕を掴んで、強引に立ち上がらせる。その際にちらと見えた足首に腫れがないことを確認してから、敢えて不機嫌な表情を作ってみせた。
「有り得ないと思わない? 初対面の人間に結婚を申し込むなんて。常識的に考えて気持ち悪いよ。正直言って願い下げだね、そんな女」
こういった手合いから徹底的に未練を削ぐには、やり過ぎなくらい
「ほら行くよ、揚げ
華々と慈々は大人しく頷いた。この二人も、こういった場面は目撃し慣れている。
「分かったのだ。きな粉揚げ
「きっと、また来るのだ」
揚げ麵麭屋台の若い主人は、目の前で繰り広げられた修羅場もどきに気まずそうな表情を見せつつも、おうと手を上げてみせる。
呆然と立ちすくんでいた少女が、はっとしたように声を上げた。
「待って! 違う、違うの、私は──」
果朶は立ち止まらなかった。細い
慈々が差し出してくれた揚げ麵麭は、微かにほろ苦かった。
◇
『六月二十八日、学院の
雑踏を掠めながら、
『──茶葉、砂糖、雑穀など、一部の品目で値上げが決定されました。禁苑の管理を担っている
音信蝶は男とも女とも判別し難い静かな声で、その日の出来事を告げてまわる。
果朶の正面に座っていた若い男が、にっこりと微笑んだ。
「果朶の言ってた通りだね。相変わらず、気象望がよく当たる。学院の
柔らかい口調だった。
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