3
これと言った問題もなく
立体都市では、すべてが木組みだ。公共の道である廻廊も、家も。高さが異なる廻廊を繋いでいる階段も。飴色の
荷車同士がすれ違ってもなおゆとりが残る廻廊は、左手に民家がずらりと並んでいた。
少し先の民家の窓から、慌ただしく鴉が飛び立つ。その民家は、外れた窓枠が未だに修繕を待ち続けているせいで、小腹を空かせた鳥たちが自由な出入りを覚えたらしい。
かと思えば別の民家は、全員が横になるには屋内が狭いのか、玄関扉を開け放って頭や足をはみ出させた状態で睡眠を摂っている。
左手はひらけていて、先ほどの荒野や、晴れわたった朝空が臨めた。
言わずもがな
「美味しいものの気配がするのだ」
「気配がするのだ。一つ上の廻廊から漂ってきている気がするのだ」
「気がするのだ。是非とも見に行ってみたいのだ」
「みたいのだ」
言うや否や、果朶に制止の隙を与えずに駆け去ってしまう。
民家の間に挟まるようにして延びている階段を登っていく華々と慈々を追いながら、果朶は軽く嘆息した。流石は育ち盛りの十三歳。驚くほど足が速い。
人が一人通るのがやっとな細さの階段を登りきると、その先の廻廊にはずらりと屋台が並んでいた。
もう数刻もしない内に起き出してくる近隣の住民のために、店主たちが朝食の支度を進めている。
一抱えもある鉄鍋で、香ばしい胡麻油がぱちぱちと跳ねている屋台があった。若い主人が、背後に積まれた木箱から丸い生地を取り出して、ひょいひょいと鍋の中に放り込む。
とたん、じゅわっと油が鳴った。一、二分ほど費やしてじっくり生地を揚げた主人は、また別の木箱へと素早く箸で移していく。
そこにはきな粉が敷かれていて、胡麻油の風味を損なわぬ程度に甘い香りを立てながら、白い生地に
無表情なりに瞳の奥を輝かせて見入っている華々と慈々に、屋台の主人は得意げに胸を反らした。
「どうだい? うちのきな粉揚げ
魅力的な誘いを聞いて、華々と慈々はごくりと唾を飲み込んだ。
果朶は二人に追い付くと、彼らの襟首をむんずと掴む。
「なに心惹かれちゃってんの? てかうろちょろしないでくれる? 大事な荷物背負ってること忘れたの?」
高価な資源である
どこからか、軽快な足音が聞こえてきた。たったったっと、身軽な者が通路を蹴って走っている時の音だった。それが、徐々に近付いてくる。
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