閑話 ヤヤメちゃんの受難は続く 後編

「改めまして……皆さん、と・う・ぜ・ん! ご存じかと思いますが、わたくしは真祖にして高潔なるヴァンパイアクイーン……エルキューラですわ」


 ・うぉぉぉぉっ!

 ・裏ボスさんに引き続きエルキューラ様まで!?

 ・はっ? どういうこと?

 ・実は知り合いだった?

 ・ヤヤメちゃん白目向いてたから初めましてじゃないかな

 ・ヤヤメちゃんって実は配信者界で一目置かれる存在?



 腰に手を当て、ドヤ顔を浮かべて私のカメラを占領したエルキューラが名乗りを上げる。コメント欄が爆発的に更新され、圧倒的な人気の差に私の気分がどんよりする。


 私から見れば、エルキューラ様は上澄みも上澄み。

 『オーパーツ』とも称されるほど出来の良いアバターと、それにマッチした本人のロールプレイ。


 後衛職でありながら自ら前線を張るプレイスタイルと、それを可能にするPSにより人気を博し、登録者1000万人に肉薄するほどの人気を集める配信者だ。


 実は顔バレしてて、中の人も100人が見れば100人が『美少女』と言う程だ。年齢は不明だけど。



 そんなわけで、私なんか月とすっぽんどころか……池の底に沈んでるヘドロと満天の夜空ぐらいの差だ。


 ……なんでそんな人が私の配信に?



「あ、あの、エルキューラ様……色々と説明してもらっていいですか?」



 微笑を讃えて視聴者さんとのやり取りを楽しむエルキューラ様に声をかける。当の本人はハッとした様子でこちらへと視線を向けた。



「あっ、そうでしたわ。突然来てしまって申し訳ありません。後ほど改めて謝罪に上がりますわ」


「いえっ、その……まぁ本当にアポなしで現れて、死ぬかと思いました」


「正直でよろしいですわ。それで、わたくしがあなたに会いに来た理由は……ズバリ、イザヨイ様の件ですわ!」


「あー、やっぱりそれですか……」



 予想はついていた。

 その時の私は知らなかったけど、イザヨイさんは他のプレイヤーと距離を置いているだけで、誰もが憧れるほど実力の持ち主らしい。


 エルキューラ様の様子を見る限り、トップ層からも支持されるほどの。


 彼女からしても、イザヨイさんとの関わりが欲しいのだろうか。



「あれは完全に事故ですから、イザヨイさんとの関わりはもう無いですよ?」


「フレンド申請も断られましたものね」


「言わないで……」


 ・酷い

 ・傷口広げないで!

 ・エルキューラ様の切れ味ww



「それでも、イザヨイ様があなたと関わりを持ったことは事実。もしかしたら、イザヨイ様があなたの配信を見ているかも知れませんわ」


「それは……どうなんだろう」



 イザヨイさんはSWOをやりこんでいるようだし、動画も見たりするんだろうけど……そういう意味では、ゲーム内で出会った私の動画を見てくれたりする……のかな?



「イザヨイ様にメッセージを届ける方法が、他に思い浮かばないんですもの。メッセージを残してもよろしくて?」


「まぁ、はい。それぐらいなら……」


「では……イザヨイ様、次の土曜の22時頃、わたくしと待ち合わせしましょう? 場所は……」


 ・待って、場所言っていいんか?

 ・配信で流したら当日殺到しそう

 ・そりゃみんな行くわなぁ



「……そうですわね。では、【ベリアゼブルの塔】の最上階でお待ちしますわ」


 ・前言撤回

 ・誰がたどり着くんだそんなとこww

 ・行きたくても行けないやつ

 ・エルキューラ様と裏ボスさんなら……何とかなるか



 【ベリアゼブルの塔】は、所謂エンドコンテンツだ。

 現在発見されているダンジョンの中で最高難易度を誇り、第一階層で腐るほど出現する通常エネミーから採れる素材のコストが800……つまり、『月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・オリジン』に匹敵するモンスターがこのダンジョンでは通常エネミーでしかないのだ。


 最上階である第100階層に存在するボスは、現時点でSWO内最強のボスである。

ちなみに、そのボスのデータには、初回討伐者として『イザヨイ』の名前が刻まれている。



 この塔を登り切れるプレイヤーは、現状片手で数えられる程度しか存在しないのだ。だから待ち合わせ場所を配信しても、ファンが殺到することはない。



「ふふん、これなら二人で会うことも可能でしょう?」


「【ベリアゼブルの塔】を待ち合わせ場所にするとか、初めて聞きました……」


「トッププレイヤーならではの特権ですわね! それでは……せっかく会ったんですもの、少しの間、わたくしとダンジョン攻略しませんこと? というか、しますわよね?」


「え゛っ!?」



 有無を言わさぬエルキューラから逃げる術もなく。

 手を引かれるままに、ヤヤメはエルキューラに拉致される協力することになった。



        ♢♢♢♢



「なぁ見てみろよこれ。昨日のヤヤメちゃんの動画」


「俺リアルタイムで見てたわ。エルキューラ様登場とかまさかすぎねぇ?」



 この日のクラス内は、SWO配信者の話題で持ち切りだった。

 ヤヤメって言うと、俺……じゃなくて『イザヨイ』で迷惑をかけてしまった相手だ。


 なんか『エルキューラ』とか聞こえてくるけど……ヤヤメさん、今度はエルキューラと何かあったのだろうか。


 エルキューラと言えば、イザヨイに匹敵する強者かつ超有名配信者。ヤヤメさんが白目剥いてないといいけど……



 なんとなく気になって、ヤヤメさんの配信を眺め……そこで俺は知ることになった。トッププレイヤーの一人であるエルキューラが、『イザヨイ』を探していることに。


 普段のエルキューラとは異なる、何処か必死さを感じさせるようなその表情が、俺の脳裏に焼き付いて離れなかった。

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