閑話 ヤヤメちゃんの受難は続く 前編

「皆さんこんにちは、鬼月ヤヤメで───ぇあ゛っ!?」


 ・キタ——————ッ!

 ・待ってました!

 ・初見です

 ・あれ? そんなに強そうに見えないけど

 ・裏ボスさんを土下座させたプレイヤーだぞ?

 ・見つけましたわ

 ・裏ボスさんいないのか残念

 ・鬼人族魔法使いって新しいな

 ・今回も裏ボスさん乱入してくるかな?



 配信を開始した私……鬼月ヤヤメは、満足に名乗る間もなく変な声を上げてしまった。原因は、初めて見るぐらいの勢いで更新されていくコメント欄だ。



 今までは1、2人ぐらいがたまにコメントしてくれる程度で、ほとんど自分が喋って動画を進行していた。


 それが今や、目を通すのも大変なほどの勢いでコメントが流れていくのだ。これは変な声も出てしまうだろう。



 ……裏ボス───イザヨイさんが居ないと分かるや否や、若干同接数が減ったことにもやっとするが。



「っていうか待って、オープニングから同接1000越え? うっそ、本当に!?」


 ・1000で泣きそうになってるの可愛い

 ・今までどんだけ少なかったんや……

 ・月の神殿攻略配信の前は登録者数ですら1000いってなかったからな

 ●ハイカラマン:[¥1,000] 支援

 ・急に視聴者が増えて戸惑う配信者とは



「っ!? スパチャ来たっ!? 待って、初めて貰っちゃった! うわーっ! なんか、えっ、あのっ、ハイカラマンさん! ありがとうございます! すごく助かります!」


 ・可愛い

 ・可愛い

 ・スパチャ初めては悲しい……

 ・千円でここまで喜べるの尊いな

 ●スウッシュ:[¥1,250] なら俺も

 ●イニシャルP:[¥1,500] 便乗

 ●ナッコゥ:[¥1,750] 応援してます!

 ・オークションみたいに上がってくの草



「はわっ!? 待っ、そんなに一気に来られると私おかしくなっちゃうぅっ!」



 初めて経験するスパチャの嵐に、私は変なテンションになってしまったのだろう。『今月の家賃が……』とか『食費が……』とか口走った気がするけど、よく覚えていない。


 ただ、その後の視聴者さんが皆、妙に優しかったことはよく覚えてる。













「いや、あれは全くの偶然で……普通イザヨイさんが私なんかの配信に出てくれるわけないじゃないですか!」


 話はすぐに、イザヨイさんの話題へ。根掘り葉掘り聞きたがる視聴者さんの様子を見ると、どれだけイザヨイさんが注目されていたかが分かる。


 ・自虐風自慢?

 ・でも視聴者にツッコまれるまで裏ボスさんのこと知らなかったんじゃ……

 ・畏れ多いとか思ってる割りには結構無茶振りしてたしね



「ぅっ……ちゃんと調べたので今は知ってますよ……。あの人、専用w○kiが作られるぐらい凄い人だったんですね……」


 ・ほんとそれ

 ・知らない人の方が少ないと思うんだけど

 ・裏ボスさんのページの『裏ボスさんが初回討伐したレイドボス一覧』見てると頭がおかしくなる

 ・マジで知らんやつばっか乗ってるし、攻略法も不明だし



「ひえぇ……私、なかなか凄いことしたんですね……」


 ・裏ボスさんの姿を見たのがヤヤメちゃんの動画が初めてってプレイヤーも多そう

 ・かなり秘密主義の人だしね

 ・ここまで今日の動画の説明なし



「あっ、そうでした! 今日はですね……というか今日ですね、隠しステージの攻略を目指そうかと……本当はイザヨイさんも誘えたら良かったんですけど」


 ・えっ、マジで?

 ・そんなに隠しステージあるの?

 ・イザヨイさんにフレ申請断られたからなぁ

 ・一人で行くんか?



「あ、はい。色々調べていくなかで発見しまして、あと数ヶ所ほど……。私一人での攻略が無理そうなら撤退しますね?」


 ・この子、実は超優秀では?

 ・隠しステージってそんなに見つかるもんだっけ

 ・それ秘匿しておくべきでは?

 ・うちのクランにきてほしい

 ・過去のアーカイブ見たら隠しステージの出し方とか出てるんじゃね?

 ・っ!?

 ・早い者勝ち、ヨーイドン!



「わ、私一人だけ分かってても攻略できないですし、それならこれを見た誰かに攻略して貰った方が……」


 ・聖人君子かよ

 ・こんな子が埋もれてたなんて……

 ・情報の価値を正しく把握するべき

 ・もっと隠してもええんやで?



「うーん、それなら……あれっ……?」



 ふいに辺りが暗くなっていき、私はキョロキョロと辺りを見渡す。調光器のついた照明を落とすようにみるみる暗くなり、代わりに赤い月の光が辺りを照らす。


 ついに完全にとなったこのフィールドは、紅血の月ブラッド・ムーンが怪しく照らす、禍々しい景色となった。


 私は、このスキル・・・を知っている。


 フィールドそのものをに塗り替えてしまうこのスキルは、吸血鬼の女王・・・・・・にのみ許された絶技。



 ———スキル【血涙の月夜ブルートレーネ・フォルモーント】。


 一定範囲のフィールドを強制的に『血涙の月夜』に変えることで、吸血鬼をはじめとするに属する者の真の力を解放する、『ヴァンパイア・クイーン』の種族スキル。



「あらあら、可愛い子羊……わたくしのバトルフィールドへようこそ。ヴァンパイア・クイーンのエルキューラとは、このわたくし……ちょっと、どうして白目を剥いていますの!?」


「あばばばば……」



 中学生にも見える幼い姿であるにも関わらず、完成された美術品のような美しさを持つアバター。


 目を奪うような、艶やかな金糸の髪。

 心の奥底まで見透かされるような、美しい深紅の瞳。

 闇夜に溶ける黒のゴシックドレスは、赤い月の光に照らされて怪しい雰囲気を放っている。


 血のように赤い翼をはためかせ、空からゆっくり降り立ったその人は、プレイヤーとしても配信者としてもトップランクに立つ、"ヴァンパイア・クイーン"───『エルキューラ』その人だった。



 私からすれば、神様のような存在。

 そんな人が目の前に現れたら……



「ちょっと、目を覚ましなさいな」



 憧れの存在に肩を揺さぶられガクガクと揺れる私は、再起動するまでにそこそこの時間を要したとさ。

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