初共闘の後日談

 翌日、二人揃っていつもより少しだけ起きるのが遅かった俺と燈瑠あかるは、急いで支度をして家を出た。


 瑠璃亜るりあ世羅せらも含めて4人での攻略が楽しくて、ついつい夜遅くまでSWOを続けてしまっていたのだ。


 おかげで学校へ行く道中も眠い……。



「学校に付いたら、瑠璃亜るりあちゃんと世羅せらちゃんにお礼言っとかないとね」


「あー……確かにあの二人、結構上手かったよな。サブキャラであんなに簡単にエリアボスが倒せるなんて」


「だよねー。千紘ちひろには悪いけど、やっぱり魔法職は必要だと思っちゃった」


「いや、実際優秀な後衛職は必要だよ」



 気が付けば、燈瑠あかるとの会話はSWOの話題になっている。

話題も増えたし彼女も嬉しそうにしてるし、何より共通の趣味が増えたのは俺も嬉しい。

 燈瑠あかるの笑顔を見ていると、こっちも自然と笑顔になってしまう。



 そんな風に会話に花を咲かせてしばらく、俺と燈瑠あかるは教室に到着する。


 その直後のことだった。



千紘ちひろお兄ちゃーん!」


「危っ───!」


「きゃっ!」



 燈瑠あかるに車イスを押されて教室に入ってすぐ、俺の姿を見つけた瑠璃亜るりあが突っ込んできたのを見て、俺は咄嗟に受け止める。


 突然のことに驚いた燈瑠あかるの悲鳴が響き、俺も何がなんだか分からないままだ。



 瑠璃亜るりあは女子の中でも特に小柄だからか、腕の力だけでも十分受け止めることはできたけど……華奢な身体から伝わる暖かさと柔らかさに、俺は慌てて手を離す。


 そんな瑠璃亜るりあはというと、えへへ……とはにかみながら俺の膝の上に座るという暴挙だ。



 ニコニコの笑顔の瑠璃亜るりあ

 周囲の男子から睨まれる俺。

 頬を膨らませてムッとする燈瑠あかる


 なんだこの状況は。



「何なんだいったい」


「昨日は本当にありがとうね! お陰で助かった! 千紘ちひろお兄ちゃんは命の恩人だよ~!」


「いやホント、白狐谷君のお陰で助かったわ」



 答えたのは、膝の上に居る瑠璃亜るりあと、その瑠璃亜るりあを俺から引きずり降ろす世羅せら


 このメンバーは……



「……SWOの話か! 紛らわしい言い方すんなよ」


「そ! でもいきなりの救援でも来てくれて本当に助かったんだよ?」


燈瑠あかるちゃんのわがままにちゃんと答えてくれる辺り、いいお兄ちゃんだよね~」


「待って、なんで私が妹になってるの?」



 燈瑠あかるの不満げな声に、みんなの視線が集まる。その視線は一様に『何を言っているんだ?』と言いた気だ。



燈瑠あかるは妹キャラ。これは決定事項だろ?」


「背が小さいところとか、ちょっとドジなところとか……」


「あとはお菓子あげれば大抵機嫌が良くなるところとかな」


「ちゃんとわがままを聞いてやる千紘ちひろが、面倒見がいい兄貴だってのは男の俺から見ても分かる」


「私の方が千紘ちひろより誕生日早いんだけど!」



 プンスカしてる燈瑠あかるの様子を眺め、全員の心が一致する。

 『そういうところだぞ』と……。



「いや、今はそんなことはどうでもいい。千紘ちひろ、お前なんで燈瑠あかるがいながら瑠璃亜るりあとイチャイチャしてんの?」


「お前見てただろ。向こうから突っ込んできたんだ、完全に冤罪だろ」


「うるせぇ! しれっとハーレムかましてる奴の意見は聞かん!」


千紘ちひろ、お前なんでそんなにモテんの? 瑠璃亜るりあとか『お兄ちゃん』って呼んじゃってるし。どういう関係?」


「くっ、解せねぇ……確かに背が高くてそれなりのイケメンで、筋肉もあってテストの順位も悪くなくて、清潔感もあって何だかんだ言いながら世話焼きで……あれ? 欠点無くね?」



 クラスメイトの男子の一人、奏馬そうまが口走った言葉に、男子全員が『確かに』と顔を見合わせる。



「そうなんだよね。白狐谷君って、女子から見ると欠点らしい欠点がなくて、総合ポイントが結構高いんよ」



 たまに、『そんな男子が車イスで……私がいなきゃダメな身体に……うへへへ……』と妄想してるヤバい奴も居るが、世羅せらは黙っておいた。



「そうそう。しかも千紘ちひろお兄ちゃんって、あかるんがいるじゃん? だからフランクに接しても勘違いしてこないっていう安心感はあるよね」


「それはホント! ちょっとしたボディタッチで勘違いする奴とかいるもんね~。ただのクラスメイトだっての」



 つまりは彼女らにとって千紘ちひろは、『気軽に遊べて恋愛には発展しない男友達』ということだ。


 それはを聞いて安心する一部の男子。

 が、それはそれで羨ましいと、多くの男子が絶望に沈むこととなったのだった。



        ♢♢♢♢



千紘ちひろってさ……モテるよね」


「唐突にどうした?」



 その日の帰り道、俺の車イスを押す燈瑠あかるが突然そんなことを言いだした。



瑠璃亜るりあちゃんは千紘ちひろのこと好……気に入ってるみたいだし、他にも何人か千紘ちひろが気になってる女子もいるよね?」


「……あれは男友達としてじゃないのか?」



 まぁ、実際瑠璃亜るりあからのボディタッチはやけに多いなとは思っている。


 が、だからといってそれ以上の何かをしてくるようなこともないし、車イスの俺は燈瑠あかるを置いて一人でどこかに遊びに行くということもない。


 燈瑠あかるが心配するようなことは何もないと思うが……。



「でも千紘ちひろも悪い気してないでしょ?」


「それはまぁ……」


「ふ—————————ん?」



 なんだか不機嫌そうな燈瑠あかるの声が後ろから聞こえてくる。



「ど、どうした? 別に普通に仲良くしてるだけだぞ?」


「それはそうなんだけど、そうじゃなくてぇ……」


「ならどうしたんだ?」



「あのさ、千紘ちひろ……千紘ちひろは私のことどう思ってる?」


「えっ?」



 改めてどうかと聞かれると……どう思っているんだ?

 今までずっと一緒に居て、家族みたい……というよりは、実際に家族だと思っている。

 悲しい時も辛い時も、嬉しい時も常に隣にいた。


 それが当たり前だと思える人物。

 俺にとって、燈瑠あかるとはそういう存在だ。



「改めて言葉にするのはなかなか難しいんだけど……」


「何……?」



 車イスを押していた燈瑠あかるが手を離し、俺の隣に来て見つめてくる。

 その表情はどこか不安そうで、それでいて期待を含んだ目だ。こんな表情をする燈瑠あかるは珍しい。



「これは俺の我儘かも知れないけど……燈瑠あかるは俺の命の恩人だし、隣に居たい、居てほしいと思ってるよ。これから先もずっと———」


「えっ……!?」



 俺が話す途中で声を上げる燈瑠あかる

 口に手を当てて驚きを隠せない様子の燈瑠あかるの頬は朱に染まり、少し潤んだ目を覗かせている。



「あ、燈瑠あかる? 俺何か———」


「ううん……そうじゃなくて、嬉しくて。えへへ……そっかぁ♪」



 不安そうな様子も不機嫌そうな様子もどこへやら。

 上機嫌に声を弾ませた燈瑠あかるは、鼻歌を歌いながら俺の後ろへと回り車イスを押す。


 どうやら俺は正解を言えたようだ。










 この時俺が燈瑠あかるに言った言葉が、プロポーズにしか聞こえないと気付いて一人悶絶するのは、この日の夜のことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る