その頃、ミツキは…… 4

Supremacyスプレマシー Worldワールド Onlineオンライン』に機能の一つに、『救援機能』というものがある。


想定外の相手と戦うことになった時や『タグ付き』に襲われたときなど、自身がピンチに陥った時にフレンドに向けて『救援依頼』を出し、助けを求めることができる機能である。


『救援依頼』を受け取った側は、『緊急転移ポータル』を用いることで、30分の間だけ救援を出した相手が居る場所へと座標転移テレポートすることができるのだ。



『緊急転移ポータル』自体は、ゲーム内で初めてフレンド登録をしたときに入手できるため、ゲームを始めたすぐにミツキとフレンド登録をしていた俺は所持していた。



それを使ってミツキの居る場所へとテレポートし、攻撃を受ける直前だったミツキを確保、ついでに地面に転がっていたルリアと思われるプレイヤーも抱えて樹の蔭へと飛び込んだ。



「すまん、ミツキ。待たせたな」


千紘ちひろぉ!」


「おっと……センコウって呼んでくれよ?」


「こわっ、怖かったっ……!」



目に涙を浮かべ、抱き着いてくるミツキを受け止める。ミツキが落ち着くまでこうしてやりたいところだけど、がそれを許してくれない。



「ルリアと……セーラ、だな。お前らは動けるだろ? こっちだ!」



角を振る動作をするメアディスの、その方向と角度で攻撃が来る位置を予測、その範囲から逃げるように移動する。



まさか、テレポートして目の前に現れたのが『メアディス』とはね。さすがに心臓に悪い。とはいえ、こいつは自分で蒔いた種・・・・・・・。俺が何とかするしかない。



Supremacyスプレマシー Unitユニット』とは、SWOの世界で最強各に位置するモンスターの総称。


それもそのはず。

こいつらを育てたのは、『イザヨイ』なのだから。



もちろん、こいつらは元々これほど強かったわけではない。俺が『イザヨイ』を育成している時、各種モンスターの群れの中でリーダー的立ち位置に居たレアモンスターだった。


当時の『イザヨイ』とは決着がつかず、互いに瀕死になってバトル終了となった相手だったけど、それ以降の後を付き添うようになったのだ。


テイムしたわけではない……というかテイマーではないからそんなことできないんだけど、群れのリーダーとして認めた感じか。



それからというもの、も楽しくなって色々と世話を焼いて育成してやったのだ。その結果が、いまだ討伐者0という化け物の誕生だ。


まぁそれは、『殺されそうなほど強い相手とは戦わない』という私の教育の賜物なんだけど、この強さはやりすぎた。ちょっと反省してる。



そんなわけで、自分が蒔いた種・・・・・・・。ミツキやイザヨイに代わって、が相手をしよう。



「セーラ! ミツキとルリアが出てこないように抑えとけよ!」


「了解! センコウは?」


「ちょっとあいつに一泡吹かせてくる」


「ちょっ……!」



右手に新しく作った『アイアン・トマホーク』を、左手には『アイアンバックラー』を。とりあえずバトルできる最低限の装備を整えた俺は、メアディスの正面へと姿を現す。



メアディスは、いうなれば『大地の化身』。

大地そのものを操る能力を持っているため、プレイヤーが地面に脚をつけている限り、どこにいてもメアディスに居場所がバレるのだ。


普段は温厚な性格だから、こうして戦闘状態になったのは事故としか言いようがない。



「まぁ、だからと言って素直に死んでやれるわけねぇよなぁ?」


「ブルルルルルッ」



メアディスは、正面に立つ俺を睨みつけるように見下ろす。


攻撃しにくいだろ?

身体の構造上、脚を前に蹴り出すことはできない。

角を振り下ろそうにも、メアディスの角が大きすぎて俺の真後ろの樹に当たる。


取りえる行動は———



「クルォォォンッ!」


「そうだろうなぁっ! 【タクティカル・パリィ】!」



踏み潰さんと振り下ろした蹄を、半身になりながら横からバックラーでぶっ叩く。メアディスの蹄は軌道を逸らし、俺の真横の地面へと突き刺さった。


【タクティカル・パリィ】は、向かってくる攻撃に対してクリティカルのタイミングでのみパリィを行うことができるスキルである。


『物理攻撃の』、『向かってくる攻撃に対し』、『クリティカルのタイミングでのみ』という、非常に限定的な状況でしか使えないうえ、クリティカルに失敗すれば効果は全くない。


しかし、その制約を乗り越えた際の効果は、初期の盾装備で『Supremacyスプレマシー Unitユニット』の攻撃を逸らすことができるほどだ。


『イザヨイ』でも、喉から手が出るほどほしいスキルだった。習得はできなかったけどね。



「おらぁっ!」


「っ!?」



横へと走り出す俺に向けてメアディスは角を振り———その横顔に直撃した俺の『アイアン・トマホーク』の衝撃に動きが止まる。


ダメージはほんの僅かにも出ていない。

想定外の被弾にビックリしたってところか。



「動きが読まれて驚いてんのか? 舐めんな、どれだけ一緒に戦ってきたと思ってる!」



『イザヨイ』で散々動きを見てきたんだ。

というか、その戦い方を教えたのはだ!



「【パワー・ノック】!」


「っ!」



間髪入れずにメアディスの首の下へと入り込み、ノックバックスキルでカチ上げる。まぁ、メアディスの首は強靭だからびくともしてないんだけど……。


重要なのは、懐に……特に腹の下に入れたということ。角も足も届かないこの場所には、メアディス自身は文字通り手も足も出ないのだ。



そうなると、さらにメアディスの動きは限定される。


『樹々を傷つけない』という特性上、飛び退く方向は———



「こっちだろ!」



真下にいる俺から離れようとするメアディスの動きを先読みした俺は、同じ方向へとダッシュして間合いを空けさせない。


流石にAGIの差がありすぎるけど、数mという僅かな距離を、フライングして移動すればステータスの差など大きく影響しない。



さて、振り切れなかったが、どうする?



「クルォォォッ!」


「だろうな!」



前足を上げ、二本足で立ち上がるメアディスの背後へと移動。


しつこく懐へ飛び込んでくる相手には、自爆覚悟で魔法を使って無理やり距離を空けることだ。



地面が勢いよくせり上がり、塔のように伸びていく石柱を、メアディスは駆け上がる。その勢いは凄まじく、あっという間に高さ数十mまで聳え立った塔の頂上にメアディスは立った。


遥か上空から地面を睥睨するメアディスの目に、この場を離れていく3人の女性プレイヤーの姿が映る。逃がすものか———



「おい、相手は俺だろう?」


「っ!?」



塔を駆け降りるために踏み出した脚を、【タクティカル・パリィ】で弾き出す!

突然脚の踏み場を失ったメアディスの巨体は、ゆっくりと、しかし確実に宙へと傾いた。



岩の塔を出現させて登る行動を読んでいた俺は、尻尾に捕まって一緒に頂上まで来ていたのだ。途中、身体を何度もぶつけてかなりのダメージを受けたけど、VIT振りビルドの俺なら問題ない。



「この高さから落ちたら、お前はどれほどダメージを受けるんだろうな?」


「クルォォォンッ!」


「おっ」



メアディスが声を上げ、それに応えるように、岩の塔の側面から突起が伸びて足場を作り出す。


メアディスはそれを利用して体勢を整え———



「【パワーノック】!」



新たな足場についた脚をとは逆側、体重が移動したことで、ノックバックを用いれば今の俺でも脚一本なら弾ける!



脚を踏み外したメアディスは再び落下し、足場を作り出して着地。

体重移動を読み切って、正確にノックバックとパリィを当て続けるのは相当疲れるけど、さっきまで『イザヨイ』で練習してたおかげか、外す気がしない。


メアディスからすれば鬱陶しいだろうな……満足に階段を降りられない状態だからな。



結局、落下させて地面へと叩きつけることはできずに地上へと到着。

ワンチャン討伐できないかと思ったけど……。



「まぁ仕方ない。これで10分経過だろ?」


「ブルルルルルル……」



戦闘開始から10分———それは、『Supremacyスプレマシー Unitユニット』に許された戦闘時間。システム上時間制限が設けられている彼らは、これ以上の戦闘ができないのだ。


目の前に堂々と仁王立ちする俺を見下ろし……メアディスはゆっくりと踵を返して、森の奥へと消えていった。



Supremacyスプレマシー Unitユニット: “黄金こんじきの王冠”——メアディス との戦闘が終了!』


『プレイヤー名: セーラ、ミツキ、ルリア、センコウ が称号 《至高たる金色の観測者》 を獲得しました』

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