月の巨人 後編
「えっと、何が起こっているんですか?」
・エグすぎ
・えぇ……
・攻撃全相殺はパワープレイすぎる
・確かにそれができればヤヤメちゃんでもMVP取れるけど! けどっ!
・なにも参考にならない攻略動画
・確かにこれは魅せプだわなぁ
「すみません、どういう風にすごいのか教えてもらっていいですか?」
イザヨイさんに言われるままに魔法を撃ちこみつつ、視聴者さんに解説を求める。
互いに攻撃をぶつけあうモンスターとイザヨイさんは、確かに迫力満点だが何をしているのかは分からない。
・これが分からない辺りやっぱり初心者
・いや、でも、えぇ……
・相殺って知ってる?
「相殺ってあれですよね? 同じ強さの攻撃をぶつけたら互いに無効化される、みたいな。そんなに難しいんですか?」
・そうそれ
・そんな簡単な話じゃないぞ。威力もタイミングも軌道も見極めないと発生しない
・野球で考えると分かるかも
・ヤヤメちゃん、野球やって全打席ヒット打てる?
・それができたら打率10割のバッターが生まれてるわww
・↑今イザヨイさんがやってるのがそれだぞ
「いや、どんなに頑張っても一回も掠らないと思うけど……え、じゃあ全部相殺してるイザヨイさんって……」
・人間じゃないか、未来予知してるかのどっちか
・それかチート使ってるかだな
・SWOでチートは無理だろ
・とにかく言葉で言い表せないようなありえないことが起こってることを分かってほしい
「ひえぇ……どうしてそんな……」
・ヘイトがヤヤメちゃんに向かないようにだろうなぁ
・ダメージを与えないようにヘイト稼ぎって、そんなのありかよ……
・とにかくもう、頭おかしい(語彙力)
モンスターには、種類によって『与ダメージが最も多いプレイヤーにヘイトを向けるモンスター』と、『向かってくるプレイヤーにヘイトを向けるモンスター』とが居るらしい。
確かに、これなら私は後ろから魔法を撃つだけだし、威力は大したことないけどそのうちMVPラインである50%を割れるだろう。
けど、どれだけ時間がかかるか分からない中、そんな難しい相殺を、ずっと……? いずれ限界が来るだろう、私も早めにダメージ出さないと……!
なんて思っていたのが、大体20分前。
もう何度目かも分からない相殺のエフェクトが弾ける中、私は認識を改める。
この人、マジのガチで化け物だ。
20分間、当然相手も攻撃の手を休めないわけで。
それでも私が無傷でいるのは、前衛を張るイザヨイさんがほぼ全ての攻撃を相殺しているからだ。
それでも2撃目はきっちり相殺しているから、一度見れば見切れるということなのだろう。
種族や
……これが男の子だったらなぁ……なんて。
後でフレンド申請してみようかな。
「【マナ・ブラスト】!」
私が放った魔法攻撃が
50%を切ったら残りはイザヨイさんがやってくれるみたいだし、トッププレイヤーの本気がどれ程のものか楽しみでもある。
「あとはお願いしますね、イザヨイさん!」
♢♢♢♢
「了解」
後ろから聞こえてきたヤヤメさんの声に、独り言のように返事をする。
残りのHPはおよそ48%ほど。私が攻撃を開始しても、ヤヤメさんのMVPには変わらない。
バックステップを踏み、オリジンとの間合いを開ける。
ヤヤメさんの魔法を数えきれないほど受け、ボロボロと崩れ始めたオリジンの鎧は、私の攻撃なら簡単に突破できそうである。
ふー……よし。
動画的にもグダったら困るし、1分で終わらせよう。
『
右手には唐傘、そして左手は……キツネを作ってオリジンを向ける。さて、残念だけどもう反撃のチャンスはないわよ?
「
「!?」
左手で作ったキツネをクイッと傾げると同時、オリジンの頭上に現れるのは、大きく顎を開いた巨大な狐。その身体はまるで、その部分だけ光がなくなっているのかと思えるほどの塗り潰された暗黒だ。
突然の巨大狐の出現に、オリジンは剣を振り上げて対応する。
が、その剣は狐の身体を通り抜けてしまう。
【
当たり判定を持たない幻であるためダメージには繋がらないけど……そんな風に剣を振り上げたら、隙だらけよ?
【ハイトルク】、【アトモスブレイカー】起動!
そして———
『
つまり、盾術系スキルを使うことができる!
「【バタリングチャージ】!」
盾術系の
『怯み』を与えると同時に、傘に隠れた私の姿を、相手は捉えることができない。
【
オリジンにぶつけたままの唐傘をそのままに、仕込み刀を抜いて瞬時に背後へ。
仕込み刀を延髄へ突き差し、【
麻痺効果により僅かに沈むオリジンを横目に、【
「【
空中を蹴り、地面へと落ちる勢いのまま『
確かな手ごたえと共に、オリジンのHPがガクンと減るのが分った。
【泉下の誘い】発動。
オリジンから溢れたダメージエフェクトを掌握し、私の次の攻撃へと付与する。
唐傘をインベントリに放り込み、『
そのまま右手に握ったダメージエフェクトをオリジンの鳩尾へと叩き込みながら、体術系スキル【グラウンド・ゼロ】を発動。
ヒット部分は文字通り『爆心地』となり、強力なノックバックと【泉下の誘い】を乗せたダメージはただ事ではない。
悲鳴を上げる間もなく上空へ弾き飛ばされたオリジンからは、夥しい量のダメージエフェクトが溢れている。
残りのHPはおよそ25%程度。
そして……空中に投げ出されたオリジンは、私の次の攻撃を避けることは不可能。
これで
顔の前で静かに手を合わせた私は、トドメとなるスキルの呪文を口遊む。
「“我は死の神なり。荒ぶる亡者よ、生有る者を喰らい尽くせ”」
———
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