月の巨人 前編
『レイドモンスター:
「私が前衛でヤヤメちゃんが後衛。とりあえず行動を把握しなきゃだから、まずは様子見で」
「了解です!」
2mを優に超える巨体。
黒や茶色を基調とした
「っ!」
勘が身体を動かすままに身体を伏せる。
直後、数瞬前まで私の身体があった場所をロングソードが斬り裂き、斬られた耳の毛が宙を舞う。
一歩踏み込んだだけで1m強の間合いが詰まり、身体を寄せることでただ剣を引くよりも速く次の行動に移ることができる。
頭上から迫る振り下ろしに対し、『
———剣が軽い。つまり振り下ろしは
「んっ……!?」
「イザヨイさん!」
「大丈夫……!」
振り下ろしを少し当てる程度で止め、そちらに対応をさせておいて『突き』で刈り取るつもりだったのだろう。
空気を裂く音と共に稲妻のような突きが突然私の目の前に現れ、首を捻って躱した私の頬を掠めて通り抜けていった。
私の頬から赤いダメージエフェクトが漏れるが、
とはいえクリーンヒットを貰えば、私の紙装甲じゃ致命傷。
一度下がり、ヤヤメさんと情報共有をしておく。
「あれ……? ダメージを受けてないんです?」
「一応避けてるから。……ちょっと掠ったけど」
でも、残念ながら行動パターンは同じようだ。
オリジンが思ったより弱いというよりは、スタチューの方の再現性が高いと言うべきか……。
『宝物庫』さえ守れればいいのか、私の視線の先にいるオリジンは私を追うこともなく、剣を構えて部屋の前を陣取っている。
「ヤヤメさん、倒すだけならすんなり行けそうだけど……動画的にはそれでもいいのかしら?」
「それはそれでバズりそうですけど……もしかして、動画映えを考えていてくれます?」
「まぁ……一応アダマンテリウムのお詫びだし。適当に倒して終わりって言うのは、ちょっと良心が……」
「それなら、最強とも言われるイザヨイさんの魅せプレイが見たいです!」
「魅せプを……?」
「はい!」
普通に倒すんじゃなくて、視聴者に『魅せる』プレイをするってわけか……。
うーん……『イザヨイ』が日の当たる場所に出るっていうのはちょっと悩ましい所だけど、魅せプでバズるイザヨイも見てみたい気もする。
これが承認欲求てやつか……。
「よし……なら今回だけ。究極のキャリーを見せてげるわ」
「キャリー、ですか?」
「えぇ。私があなたをMVPにしてあげる」
♢♢♢♢
モンスターの討伐に最も貢献したプレイヤーは、MVPとして特別報酬をもらうことができる。基本的には『最もダメージを与えたプレイヤー』がMVPとなるけど……
オリジンを相手に私が攻撃すれば、ヤヤメさんの与ダメージを余裕で超えて私がMVPになってしまうだろう。かといって私が攻撃しなければ、ヤヤメさんにターゲットが移って面倒なことになる。
つまり、私に要求されることは、『相手にダメージを与えない攻撃を出し続ける』こと。そんなことが可能なのかと疑問に思うだろうけど……理論的にはできるんだな、これが。
「ヤヤメさんはとにかく後ろから魔法を撃って。それ以外は私に任せてくれればいいから」
「は、はいっ」
『
「っ……」
瞬時に身体を沈め、オリジンの横薙ぎの下をくぐる。
今度は掠りもせず、自慢の美しい毛も斬られることはなかった。
振り抜かれたロングソードは、タクトのように上へと昇り、一歩踏み込んで身体を寄せたオリジンの振り下ろしが———
「ここで、こう」
オリジンの振り下ろしに合わせ、『
ギィンッ!
とけたたましい音を立てて互いの攻撃が止まる。
そんな便利な
トッププレイヤーこそ、この
でも、イザヨイはSWOをプレイしているどんなプレイヤーよりも、多くの高難易度ボスを攻略してきた。あまりにも濃厚な経験をしてきた私は、当然それに見合う苦労と努力をしてきた。
だから、こんなことだってできる!
剣を引き、切っ先をこちらに向けたオリジンが次に繰り出すのは『突き』。
それを黙視するよりも速く『
互いの刺突は、二条の閃光となって中間でぶつかり合い———音と白いエフェクトを弾けさせて停止した。
2連続の相殺の成功。
そして、3度、4度……
オリジンの攻撃の全てを相殺し、私には一切届かない。
相殺のため互いにダメージはないけど、こっちは二人のパーティーだ。
私がダメージを与えなくても、ヤヤメさんが削ってくれるのだ。
「さぁ、おいで? 私が遊んであげる」
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