月の巨人 前編

『レイドモンスター: 月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・オリジン が出現!』



「私が前衛でヤヤメちゃんが後衛。とりあえず行動を把握しなきゃだから、まずは様子見で」


「了解です!」



2mを優に超える巨体。

黒や茶色を基調とした全身鎧フルプレートに身を包み、フルフェイス故顔も見えない。


月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・オリジンは、鎧と対照的な白の刃を持つロングソードを腰だめに佩き———



「っ!」



勘が身体を動かすままに身体を伏せる。

直後、数瞬前まで私の身体があった場所をロングソードが斬り裂き、斬られた耳の毛が宙を舞う。


月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・オリジンの攻撃はまだ終わらない。

一歩踏み込んだだけで1m強の間合いが詰まり、身体を寄せることでただ剣を引くよりも速く次の行動に移ることができる。



頭上から迫る振り下ろしに対し、『艶桜白長濤あでばなしらうねり』を抜き、その剣を受け止める。ギャリリリッ! と、金属同士がこすれる音が響く。



———剣が軽い。つまり振り下ろしはで、本命は……。



「んっ……!?」


「イザヨイさん!」


「大丈夫……!」



月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・オリジンの本命の攻撃は『突き』だった。

振り下ろしを少し当てる程度で止め、そちらに対応をさせておいて『突き』で刈り取るつもりだったのだろう。


空気を裂く音と共に稲妻のような突きが突然私の目の前に現れ、首を捻って躱した私の頬を掠めて通り抜けていった。


私の頬から赤いダメージエフェクトが漏れるが、職業ジョブ伊弉弥いざなみ』の効果により瞬時に回復。この程度のダメージはないようなものだ。



とはいえクリーンヒットを貰えば、私の紙装甲じゃ致命傷。

一度下がり、ヤヤメさんと情報共有をしておく。



「あれ……? ダメージを受けてないんです?」


「一応避けてるから。……ちょっと掠ったけど」



月の巨人ギガス・オブ・メーヌリス・スタチューと比べれば、確かに動きが速くて威力も高い。さすがはオリジン・・・・というべきか……。


でも、残念ながら行動パターンは同じようだ。

オリジンが思ったより弱いというよりは、スタチューの方の再現性が高いと言うべきか……。



『宝物庫』さえ守れればいいのか、私の視線の先にいるオリジンは私を追うこともなく、剣を構えて部屋の前を陣取っている。



「ヤヤメさん、倒すだけならすんなり行けそうだけど……動画的にはそれでもいいのかしら?」


「それはそれでバズりそうですけど……もしかして、動画映えを考えていてくれます?」


「まぁ……一応アダマンテリウムのお詫びだし。適当に倒して終わりって言うのは、ちょっと良心が……」


「それなら、最強とも言われるイザヨイさんの魅せプレイが見たいです!」


「魅せプを……?」


「はい!」



普通に倒すんじゃなくて、視聴者に『魅せる』プレイをするってわけか……。

うーん……『イザヨイ』が日の当たる場所に出るっていうのはちょっと悩ましい所だけど、魅せプでバズるイザヨイも見てみたい気もする。


これが承認欲求てやつか……。



「よし……なら今回だけ。究極のキャリーを見せてげるわ」


「キャリー、ですか?」


「えぇ。私があなたをMVPにしてあげる」



        ♢♢♢♢



モンスターの討伐に最も貢献したプレイヤーは、MVPとして特別報酬をもらうことができる。基本的には『最もダメージを与えたプレイヤー』がMVPとなるけど……



オリジンを相手に私が攻撃すれば、ヤヤメさんの与ダメージを余裕で超えて私がMVPになってしまうだろう。かといって私が攻撃しなければ、ヤヤメさんにターゲットが移って面倒なことになる。


つまり、私に要求されることは、『相手にダメージを与えない攻撃を出し続ける』こと。そんなことが可能なのかと疑問に思うだろうけど……理論的にはできるんだな、これが。



「ヤヤメさんはとにかく後ろから魔法を撃って。それ以外は私に任せてくれればいいから」


「は、はいっ」



艶桜白長濤あでばなしらうねり』を腰に佩き、無造作にオリジンへと歩みを進める。私が近づくとオリジンはフルフェイスの奥の目に光を宿し、先ほどと同じようにロングソードを構え———



「っ……」



瞬時に身体を沈め、オリジンの横薙ぎの下をくぐる。

今度は掠りもせず、自慢の美しい毛も斬られることはなかった。


振り抜かれたロングソードは、タクトのように上へと昇り、一歩踏み込んで身体を寄せたオリジンの振り下ろしが———



「ここで、こう」



オリジンの振り下ろしに合わせ、『艶桜白長濤あでばなしらうねり』を振り上げる。オリジンのロングソードと私の振り上げの軌道が重なり……


ギィンッ!

とけたたましい音を立てて互いの攻撃が止まる。

相殺・・が成功したのだ。


相殺・・とは、同系統の攻撃を、ほぼ同じ威力で全く逆の方向から、同じタイミングでぶつけあうことで発生する現象である。音と白いエフェクトが弾けて互いの攻撃は完全に無効化されることとなり、相殺・・のため、互いへのダメージは0となる。


そんな便利な相殺・・だが、相手の攻撃の軌道と威力を一瞬で見切り、タイミングを合わせてぶつけるなど、とてつもない難易度である。


トッププレイヤーこそ、この相殺・・をプレイヤースキルとして使用するものの、成功率は良くて3割程度。一回のバトルで4割成功させればスーパープレイだ。



でも、イザヨイはSWOをプレイしているどんなプレイヤーよりも、多くの高難易度ボスを攻略してきた。あまりにも濃厚な経験をしてきた私は、当然それに見合う苦労と努力をしてきた。


だから、こんなことだってできる!



剣を引き、切っ先をこちらに向けたオリジンが次に繰り出すのは『突き』。

それを黙視するよりも速く『艶桜白長濤あでばなしらうねり』を視線の高さまで持ってきた私は、同じく『突き』を繰り出す。


互いの刺突は、二条の閃光となって中間でぶつかり合い———音と白いエフェクトを弾けさせて停止した。



2連続の相殺の成功。

そして、3度、4度……


オリジンの攻撃の全てを相殺し、私には一切届かない。

相殺のため互いにダメージはないけど、こっちは二人のパーティーだ。

私がダメージを与えなくても、ヤヤメさんが削ってくれるのだ。



「さぁ、おいで? 私が遊んであげる」

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