月の神殿の表と裏
視聴者の人たちはキモイけど、アダマンテリウムの件がある以上、私に断ることなどできない。協力してプレイするのはいいけど、配信はもう二度とごめんだ。
コメント欄を見ないようにしつつ、道中のモンスターを消し飛ばしながら目的地へと突き進む。
ちなみにヤヤメさんが目指しているのは、この森の奥にある遺跡、『メーヌリス神殿』。真っ白で幻想的な神殿である。
何百年も前にこの周辺で栄えた文明が滅び、今では遺跡フィールドとしてこの場に残っているだけだ。
当然私も攻略済みのフィールドだったけど、ヤヤメさんがなんと隠しステージを発見したというのだ!
そんなこと全く知らなかった私は俄然楽しみになってしまい、ヤヤメさんよりも先を急いでしまっているぐらいだ。
っと、気を付けないと……『イザヨイ』は感情を表に出さないキャラだからな。
奥歯を噛み締め、にやけそうになる頬ぐっとこらえる。
『イザヨイ』はクールで、涼しい顔でなんでもこなす最強キャラなんだ。
(イザヨイさん嬉しそう……あんなに尻尾を振っちゃって)
表情ばかり気にしている私は、わさわさとリズミカルに揺れ動く尻尾に気付いていなかった。
♢♢♢♢
「この遺跡は昔、星の観察をするために使われていた……という設定はご存じですよね?」
「えぇ、もちろん」
「星を見るために天井付近にいくつかの窓が開いているんですが……ここ。夜に月の光が神殿内に入るようになっているんです」
「えぇ」
「これを鏡で反射して、中央の噴水に当てると……」
ヤヤメさんは備え付けられている大型の鏡を動かし、中央の噴水へと光を当てる。
淡い月の光によって、水が枯れて寂しくなっていた噴水が慰み程度に彩られる。
鏡を一つ、二つ……と操作していくと、徐々に噴水に集まる月明かりが強まり、キラキラと幻想的な景色を作り出していた。
「でも……それって他のプレイヤーが何人もやってるのだけど……」
そう、それぐらいのチャレンジなら、やった人が何人もいる。
けど結局何も起こらず、隠しステージなんてものが見つかった話なんて無かったはずだ。
「その人たちは、タイミングが悪かっただけなんです。私の研究では、今日なら……『最も月が近づく日』と『最も夜が長い日』、現実で言うなら
「……まさか」
時間が経過するにつれ、普通なら弱まっていくはずの月の光がさらに強まっていく。
そうか、『月の光を集めるという行為』ではなく、『噴水に当たる月明かりの光量』が重要だったのか。
『最も月が近づく日』と『最も夜が長い日』が重なる時にしかチャンスがないって、それは普通にやっててもできるわけがない。
眩しいほどの光に包まれる中央の噴水は、水の代わりに月明かりを噴き出して輝きを放ち、その様子はまるで……
「まさかこれ、魔法陣になってる……?」
丸い形状の噴水に月明かりの模様が浮かび上がり、どこからどう見ても魔法陣だ。
それも、模様から察するに『転移系』の効果を持っている。
「今のうちです、飛び込みましょう!」
「えぇ……っ!」
噴水の魔法陣にジャンプして突っ込むヤヤメさんに続き、私も魔法陣へと飛び込む。
視界の全てを眩い光が塗り潰し、私も思わず目を閉じる。
ほんの僅かな浮遊感。
直後、脚よりも先に尻尾が地面についたのを感じ、上手くバランスを取って着地。
隣で痛そうな声を上げてお尻から落ちるヤヤメさんの悲鳴を聞きながら、私は周囲を見渡す。
さっきまで夜だったはずなのに、今は日の光が辺りを照らしており、昼になっているようだ。
そして
なるほど、本来の『メーヌリス神殿』とは全く逆になっている。
これは面白い……まだ見ぬステージがあったとは!これだからSWOは最高だ!
そして、間違いなくここは前人未到のステージ。まだ未発見・見討伐のモンスターが存在するのだ!
というか、もう見えている。
神殿の入り口から、噴水を挟んでさらに奥の部屋……通称『宝物庫』と呼ばれる部屋の前に静かに佇む、騎士のような姿のモンスター。
表の『メーヌリス神殿』には動く石像としてほとんど同じ見た目のモンスターが存在した。
もちろん私はその石像を討伐しているけど、
石像があるのだから、像のモデルにした何者かが居るとは思っていたけど……隠しステージにいたとは。それは探しても見つからないわけだ。
「いたたた……でも成功しました! どうですか? イザヨイさんもやる気出たんじゃないですか!?」
「最高。あいつをさっさと倒して、ここを攻略してしまいましょう?」
「はいっ! って言いましたけど、結構強いボスですよね?」
「表の神殿にいた石像は意外と簡単に倒せるわよ。オリジナルがどれほどなのか分からないけど……行動パターンが同じだとありがたいわね」
「いや……表の石像にもボコボコにされたんですけど……」
「私が前衛を張るんだもの、大丈夫よ。指一本触れさせないから」
「……イザヨイさんが男性だったら惚れてますよ」
……中身は男なんだよなぁ。
でもまぁ、ロールプレイとはいえ女の子に言うにはクサすぎる台詞だったかな。
ヤヤメさんの言葉を聞き流しつつ、『宝物庫』の前に立ち塞ぐ騎士へと近寄る。
そして……ついにバトルエリアに入ったのだろう。
杖のように地面についていた剣を持ち上げ、その切っ先を私に向けると同時……ゲームアナウンスによってバトル開始が宣言された。
『レイドモンスター:
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