配信者ってやっぱりすごいんだな……
「イザヨイさんって、SWO好きなんですか?」
「えぇ、まぁ……」
「やっぱりそうですよね! グラフィックとかリアリティとか凄いですしっ! どれぐらいからやってるんですか?」
「リリースしてすぐ、かしら……」
「えっ、最古参じゃないですか! 私なんてまだ数ヶ月って感じで、視聴者さんに馬鹿にされることもよくあるんですよね」
「そうなのね……」
「はいっ! あっ、もしよければ、
「それは内緒」
「ですよね! そう簡単に話したら手の内バレちゃいますもんね! その、今持ってる和傘って、もしかして武器ですか?」
「えぇ……メイン武器じゃないけど。『
「あっ、すごい。柄の部分を抜けば刃が現れるんですね!」
「えぇ……森の中じゃ『
「なるほど!」
この子メチャクチャ喋るな……。
いや、配信者なんだから当たり前か。
黙ってただゲームやるだけじゃ人気なんて出ないし。
……私はこの子を知らないんだけど、配信者界隈では有名だったりするのだろうか……。
「……っと」
『稲荷空狐』の鋭敏な耳が、何者かの足音を捉える。
草木が邪魔で姿は見えないけど、これはおそらく———
「グルアァァァァァッ!」
「きゃっ!?」
突然の咆哮とともに、草木の間から何かが襲いかかる。
黄色の身体を黒の模様が怪しく彩り、ナイフのように長い牙を剥いて襲いかかやってくるそれは、『アヴィス・タイガー』。
隠密に長けたそのモンスターに気づいた時には、すでに避けられないほど近く———
———スキル【
スキルの発動と同時に、私を中心に仄暗いドーム状の空間が現れる。
飛びかかる勢いのままそのドームに触れた『アヴィス・タイガー』は、
「———え、はっ……!?」
目を開けたヤヤメが見たものは、割れたガラスのように飛散した『アヴィス・タイガー』
そして、私を中心に、半径1mほどの範囲内に生えていた草木が全て枯れ果てている光景だった。
「えっ……何が起きたんですか?」
「私のスキルを使ったのよ」
「えっと、何がどうなってこんなことに……」
「即死」
「えっ」
「一定範囲内にいる全ての生命を即死させるスキルなの」
「……チート過ぎません?」
「うーん、実は言うほど強くないのよね……」
初期の頃こそ『即死』は猛威を振るったけど、もちろん運営がそれを放置するわけもなく……かなり早い段階でナーフされている。
まず、ほぼ全てのボスモンスターに『即死無効』が追加されたこと。これのお陰で、一番最初に戦う『グリーン・トロール』でさえ即死が効かないのだ。
さらに、《生命の加護》という称号の追加。これも『即死無効』であり、プレイヤーは各地にある教会にお布施を払うことで簡単に入手できる。
ボスモンスターまでの道中に出てくる雑魚モンスターには有効ではあるけど、素材は残らないという……
本当に、上級者が道中の煩わしい雑魚をスキップするためのスキルになってしまったのだ。
一応、『タグ付き』は《生命の加護》が消失&取得不可になるため、以前私がやったみたいにPKKは割りと簡単にできる。
……あの時もタイマンで遊ばずに【
「そんなに気にするほどのスキルじゃないわよ」
「そうなんでしょうか……」
「それより、聞きたいことがあるんだけど」
「はいっ、なんでしょう?」
「ヤヤメ……さん? あなた、人気配信者だったり———そんな悲しそうな顔することってある?」
私が言い切る前に、突然ヤヤメさんの表情が今にも泣きそうなものに変わる。
手のひら返しが得意な某掲示板の住人でも、びっくりなほどの変貌ぶりだ。
「私のチャンネルなんて人気の『に』の字もないほどの過疎っぷりですよ……待てど暮らせど芽が出る気配もない……今だって同接数———えっ!?」
「どうかしたの?」
「一万超えてるんだけど……え、現実? 見間違いじゃない? これ、私の目がおかしくなったわけじゃないですよね?」
ヤヤメさんが何やらウィンドウを弄り始める。
おそらく配信用のUIの設定を変えたのだろう。さっきまで私には見えていなかったウィンドウが現れ、ヤヤメさんが提示するままに私はウィンドウを覗き込む。
そこには確かに一万を超える数字が……そして今も上昇中である。
「確かに一万は超えてるわね。というか……」
・イザヨイ様のお顔が近い……!
・初めてこんな近くで見た
・可愛いしカッコいいし美しい……
・裏ボスさん?
・イザヨイ様、好きです
・この配信見てる視聴者の9割9分が裏ボスさん目当てで草
「ぅわぁ……」
つい視聴者のコメントが目に入ってしまい、得も言われぬ悪寒に思わず身震いしながら顔をしかめる。
少なくとも一万を超える不特定多数の人々に見られている事実と、
バーチャルでもこれだ。
顔出しして動画を配信している人たちのメンタルはダイヤモンドなのか?
『イザヨイ様に見下されてる……ハァハァ』とか『そのまま罵ってほしい』とかいうコメントが増えてきた辺りで顔を背け、何とかしてくれという思いを込めてヤヤメさんを見る。
が、そこにはうわ言のように何やら呟いているヤヤメさんの姿があった。
「いきなり同接が千倍……? もしかして人気配信者の仲間入り?」
「ヤヤメさん?」
「収益アップが見込めて……やっと三食もやし生活から抜け出せる……!?」
三食もやしって……可哀そう。
底辺配信者ってそんな……いやいや、じゃなくて。
「ヤヤメさん。貴方の視聴者さんって、いつもこんな感じなの?」
「えっ? いや、いつもはそもそも20人弱ぐらいしか見てないから———おい誰だ『狐の威を借るネズミ』とか言ったやつ。それを言うなら『虎の威を借る狐』だし、私がネズミだって言いたいの?」
・イザヨイさん見たいからヤヤメちゃんどいて
「ちょっと、それは酷いでしょっ! イザヨイさんも言ってやってください!」
「えぇ……」
ウィンドウに目を向ける。
途端にコメントが溢れ、ハァハァし出す視聴者もさっきより増えている。
これはしっかりと言葉にして言わないとダメだな……
「そんな目で私を見るの、止めてくれないかしら。本当に気持ち悪いから……」
・ッッッッッッッッ!?
・助かる。とても助かる
・あぁぁぁぁぁぁぁっ!?
・『気持ち悪い』いただきました!
・しかも本気で思ってそうなのがポイント高い
・最近の『言っときゃ喜ぶんでしょ』みたいなファッションメスガキ配信者とは破壊力が違いますわ
・初めてドMの気持ちが分かった……
・ようこそこちらの世界へ
・ヤバい、そっちの気はなかったけど、アリだと思ってしまった
しまった。
これは完全に逆効果だった……!
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