伝説の幕開け?

こっちもたまには更新しないとね……


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アダマンテリウムを追って背の高い草木を抜けると、目の前に現れたのは一人の女性プレイヤー。


彼女はに気付いていないようで、避けてもらうのは期待できないだろう。

かく言うも動体視力が良いからプレイヤーの姿が見えているだけで、このスピードで突っ込んで、避けられるかといえばそうではない。


つまり、どうしようもない。



「っ……!」


「きゃっ!」



女性プレーヤーへと突っ込んでしまい、二人そろってバランスを崩す。

せめて怪我ダメージを負わないように……!


女性プレイヤーを両手で抱きかかえ、身体を捻って私が下へ。

押し倒すような体勢から女性を受け止める体勢に無理やり変え、私自身は尻尾をクッションとして受け身を取る。


結果、二人の女性プレイヤーが抱き合う形で横たわり、ようやく止まったのであった。



「ん……いったい何が……」


「私の不注意だったわ、ごめんなさ———」


「あっ! アダマン……あぁぁっ!」



何かを思い出したかのように勢いよく起き上がったその女性プレイヤーは、悲鳴のような声を上げる。


ちょっと待て、今『アダマンテリウム』って言おうとした?


女性プレイヤーの視線の先を見れば、罠を抜け走り去る黒銀のイノシシの姿が……。


あっ(察し)。

これ、がアダマンテリウムの捕獲を邪魔した感じだな?

しかもアダマンテリウムを罠にかけ、あとは網で捕らえるだけの段階まで追い詰めた時に乱入し、アダマンテリウムを逃がしてしまったという……。



まずい、非常にまずい。


SWOプレイヤーの間では、『アダマンテリウムの捕獲・討伐は邪魔をしない』というのが暗黙の了解だ。


当然ながらそれは、アダマンテリウムの出現率が低すぎるからで、邪魔しようものならギルティ・オブ・ギルティ。PKされても文句は言えない。


も、もし故意にアダマンテリウムの捕獲を邪魔されたら、『タグ付き』になるのも承知の上でPKするだろう。そのまま5回ぐらいリスキルするかもしれない。故意じゃなくても『決闘』を申し込んで半殺しだ。



ふーっ……落ち着け。

とりあえず落ち着いて謝ることが先決……!



「ごめんなさい、怪我ダメージはない……?」


「あっ、ううん! 私は大丈夫! ごめんなさい、全然周りを見てなくて」


「いいのよ、邪魔しちゃったのは私だし、折角追い詰めていたアダマンテリウムが……」


「あー……なんかすごいレアなモンスターだったらしいですね」


「うっ……そう、本当にごめんなさい」


「ううん、良いの! えっ? なになに……」



不意に私から目を離し一人で話だした女性プレイヤーは、何らかのウィンドウを操作しながらの顔とウィンドウを交互に見つめる。



「イザヨイさん? ……って誰? え、裏ボス? 名前聞いてみろって……えっと、すみません」


「何かしら」


「あなたが『裏ボス』さん、ですか?」


「……えぇ、まぁ……界隈ではそう呼ばれているようね」


「ですって皆さ———うわっ、ちょっ、なんか一気にコメント増えたんだけど!?」



コメント?

……なんでコメント?

SWOにログインしながら掲示板を見れる機能なんてないし、リアルタイムで外部とのやり取りなんて、なんだかゲーム実況みたいな……


ゲーム実況、だと……?



「失礼だけど……もしかしてあなた、ゲーム配信者だったり……?」


「え? はい、SWO配信者の『鬼月ヤヤメ』です。……やっぱりこの程度の知名度かぁ……」


「この度は多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳———」(土下座)


「えっ!? いきなりなんですか!?」



ええいっ! なんと言われようと、は土下座するぞ!

この人は配信者で、現在進行形で配信中だと思われる。つまり、アダマンテリウムの捕獲が成功する直前にが乱入して、アダマンテリウムを逃がしたという『大罪』が、世界中に配信されたということだ。


世界中のSWOプレイヤーに白い目で見られ、彼女のファンには袋叩きにあうだろう。


そうなる前に俺ができることは、誠心誠意謝罪すること———!



「何もそこまでっ、顔を上げてください!」


「埋め合わせができるのであれば、何でもします。どんな罰でも受けます。私の謝罪を受け入れてもらえないでしょうか」


「分かった、分かったから! こんな綺麗な人を土下座させたなんて、私の悪評が広がるから!」



この人は菩薩か何かか?

アダマンテリウムの捕獲を邪魔した私を、許すだなんて……。

いや待て、油断してはダメだ。この後どんな要求が来るか……『艶桜白長濤あでばなしらうねり』を要求されたらさすがに勘弁してほしいけど……。


が一人ハラハラしていると、その女性プレイヤーはウィンドウとにらめっこしながら何やら呟いている。



「さすがにそのまま許すのはダメだって言われても私は別に気にしてな……え、攻略に誘えって? そんな、見ず知らずの人を誘うなんて……いや『知らないのはお前だけ』とか言わないで」



コロコロ表情が変わるけど、ちょっと怒ってそうなのは、やっぱり根に持ってるんだろうな。


今度は何やら悩んでる?

あれか、お詫びの品として何を要求しようかと考えてるんだな。



「提案してみるけど、十中八九断られるでしょ……まぁいいけどぉ。よしっ……えっと、イザヨイさん?」


「なんでしょうか……?」


「敬語になってる……。じゃなくて、もしよければこの後私と一緒にボスの攻略に行きませんか?」


「えっ…………え?」


「いきなりすみません! そりゃ戸惑いますよね……」


「ボスの攻略……あなたと?」


「はい、少々事情がありまして、一緒に攻略するはずだった友人が来れなくなりまして……前衛職の方がいるととても助かるんです」


「……ってことは、配信も?」


「はい、ダメですか……?」


「うっ……さすがに配信は……」


「アダマンテリ———」


「やりましょう。えぇ、『裏ボス』たる所以を見せてあげるわ」


「ほ、本当に上手くいったんだけど……」



アダマンテリウムの名前を出されたら断れるわけもない。

『イザヨイ』はそんなキャラじゃないけど……それで償いとなるのなら、今日だけは協力してあげようじゃない。







そんなわけで配信に協力することになったのだけど……この配信により配信者『鬼月ヤヤメ』が伝説になるとは、本人も予想だにしていなかった。


————————————————————

あとがき


主人公は普段、理想の『イザヨイ』ロールプレイをしているため一人称が『私』となりますが、素に戻った時は『俺』に戻っています。


一人称が安定していないのはこういう理由です。

読みにくかったらごめんなさい。


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